「私は、戦う為に生まれたのです」
いっそ誇らしげに、オーストリアは告げた。そこには一片の卑下も自己憐憫も窺えず、だからこそ性別を問わぬ数多と関係を持ち閨房を主な戦場としながらも、その美貌は清冽な気高さを失わないのだろう。
心に疾しいものを抱えた人間は相手を直視出来ない。先に目を逸らしたのは糾弾者であるプロイセンの側だった。
「戦うのは守る為です。私は神聖ローマを守護する為に、武力以外の手段を用いているだけのこと」
「……てめぇの、好きでもない野郎に足を開く行為がそれを見てる奴の心を傷付けて、それでも守ってやってるって言えるのかよ」
「傷付いているのですか?」
目を合わせられないまま振り絞った再びの糾弾は全く伝わらなかった。心底不思議そうな声音で聞き返され、プロイセンは天を仰ぎたい気分になった。
「これまでだって、神聖ローマは何も言いませんでしたよ?お前が納得しているならそれで構わないと、仰ってくれました」
それはあいつが子供だから何も解ってないだけだと言い返しそうになり、オーストリアがいつまでも成長しない主君の姿を不安に感じていることを思い出したプロイセンは慌てて口を噤んだ。阿婆擦れの淫乱とは罵れてもそれは口に出来ないプロイセンは、自分の言葉がオーストリアを傷付けないことを、最初からどこかで察していたのだろうか。
「不器用な方ですけど、最近は笑みを見せることもあるのですよ?イタリアのおかげですね」
そして、オーストリアにとっては、神聖ローマが幸せならそれで構わないのだ。例えプロイセンが傷付いていても思い止まらせる力にはならない……
「ん?」
「どうかしましたか?」
「いや、何でもねぇよ」
不思議そうな顔をされても、プロイセンこそ自分の思考が解らない。余程変な顔をしていたのだろうか、なおも首を傾げながら見つめてくるオーストリアの視線から逃れる為、プロイセンは敵前逃亡よろしく背を向けた。
果たして自分は嫌味を言いたかったのか、尊厳を切り売りするような真似を止めさせたかったのか。
立ち去ろうとするプロイセンを珍しく追うように、オーストリアのかけた声が届いた。
「動機はどうあれ、結婚とは祝福すべきものですよ。……そう思ってはくれないのですか?」
「思わねえよ、ばーか」
誰か思えるというのか。嫌悪に打ち震えながら寝所に赴くのならまだしも、苦痛でないというなら尚更悪い。
神聖ローマがこいつに惚れていたなら良かったのに、と些か倒錯した感慨をプロイセンは持った。この苦痛を半ば部外者である筈の自分だけが感じているなんて、こんな理不尽な話があるだろうか。