指の間を擦り抜けるような、しなやかな髪の手触りを想像する。
ボクの指先が弄ぶように長い髪を梳けば、兄さんは満足気な猫のようにその黄金色の瞳を細めた。
「アル」
「兄さん?」
返事の代わり、甘えたように身を擦り寄せる仕草もどこか猫じみていると思う。
触れ合った拍子に機械鎧の右腕が鋼鉄の体にぶつかって、硬質の金属音が空洞の体内に響き渡る。ぐわんぐわん、ボクは頭を揺さ振られたようなかんじ。
なんだか奇妙な気分になった所為かな、ボクは髪を撫でていた手を兄さんの顔の輪郭を確かめるように滑らせて、猫をあやすみたいに咽を擽ってみた。
「くすぐったい」
兄さんは可笑しそうに身をよじって、再度ぐわんと金属音。
「……アル」
機械の右手と生身の左手が捧げ持つようにボクの手を取って、
「兄さん!?」
人差し指を口内に招き入れた。
勿論鎧の指に感触なんてないんだけど、目を伏せて一心に舌を這わせてる兄さんを見ている…視覚だって無いのにこれも変だよね…だけで、何が何だかわかんなくなっちゃって。
錆止めの油が口に入っちゃったら大変なのに、それすら指摘出来なくて硬直していたボクは今だけ普通の鎧みたいだけど、魂の入ってないタダの鎧はこんなに急激に熱くなったりしない。
「に…兄さん」
やっとのことでボクが声を出すと、兄さんはちらとボクの兜の方を見て、不承不承といった様子で口を離した。つうと垂れた唾液を袖口で拭って、そして、鞣し革のボクの手の甲に…せ、接吻、して。
照れくさそうに視線を逸らしてから、もう一度こっちを見て破顔した。
鋼鉄の体が溶解するかと思っちゃった。
これも魂の引き起こす錯覚、なんだけどね。
 
 
 
 
 
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