――MEMENTO MORI――
峻厳なる天国への隘路、花咲き乱れる地獄への大路、
せめての手向け、好きな道を撰ばせてやろう程に。
審判の日は近い。
 
 
 
……宗教画の内に迷い込んだか。
錯覚する程、しなやかに屹立するその肢体は、男には光輝を伴って目に映った。
無神論者の男が、審判を下しに表れた天の御遣いであると信じたのだ。
半ば瓦礫と化した廃墟に独り佇み、天井の割れ目から零れる幾条もの光線が、長く伸びた豪奢な金髪を光輪の如く煌めかせている。
少年時代の柔らかなラインを失った鋭角的な頬、地面に這いつくばる無様な男を見下す色素の薄い瞳は、酷薄な人外の印象を与え、その手には裁きの大天使のように槍を握っている。
かつてに比べれば背ばかりは見違えるように伸びたが、硬質で中性的な美貌は益々際立ち、しなやかな体躯と相まって恐ろしく凄味を持つに至っていた。
光を背にした青年の、黄玉色の鋭い眼差しが卑小な塵芥を見る目で自分に注がれている。
その圧倒的な存在感。威圧感。
自覚するだけで、恐怖か歓喜か解らない衝動で、年甲斐もなく体が震えた。
正しく青年は自分にとって御遣いに他ならなかった。
漆黒の上下に身を包んだ、死をもたらす天使。
 
「――大佐」
随分昔の階級で、青年は男を呼んだ。
「選ばせてやろう。あんたは何を望む?」
男の今の地位を知っている筈の彼は、無機的な表情を一切緩めないにも関わらず、声音ばかりは慈悲深さすら感じる柔和さで語り掛けた。
数年前では決して出せなかったであろうそれを聞いて、男は一層決定的に、彼らの間を駆け抜けた歳月の存在を自覚する。
同時に、彼岸と此岸を隔てるあまりの遠さ深さ。
「……救済を、安息を求める」
疲労だけを滲ませて、男は苦笑した。
自分と青年以外、もう誰もこの場には生きていないだろう。
全てが瓦解したにも関わらず、酷く気分が穏やかだった。
無言のまま、黄金を体現して輝く青年は僅かに目を伏せる。黙祷を捧げるように伏せた顔にきらきらと光の粒子のように髪が落ちかかる。
 
――見惚れている男の首に、音もなく長槍の先端が擬された。
 
 
 
 
 
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バッドエンディング回避実験その2。
多分こうもならない(違う漫画になるよ)。

全てはニュアンスなので、事情はあんまり考えてませんよー。