「ねえ姉さん」
「おう何だ?」
相変わらず男前な返事をして、ボクの姉さんは本から顔を上げた。
「あのさ、前々から大佐が『君からお姉さんに口添えしてくれないか』って煩くて迷惑してるんだけど」
「……それはオレが悪いのか?」
比較的機嫌の良さそうだった姉さんは、訴えを耳にした途端に眉間の皺を増やす。そりゃボクだってこんなこと言いたかないんだけど。
「姉さんの口からすっぱり断…っても諦めないんだろうなぁあの人は……」
「うげー」
姉さんもそれを想像したのか、不味い物を吐き出すように舌を出す。ボクが言えた義理じゃないけど、少しだけ大佐が不憫になった。
「でも何でそんなに嫌いなの?まあ女性関係にだらしなさそうだけど」
「いやそれはいいんだけどさ」
「いいの!?」
「問題はそこじゃないっつーか」
ぼりぼりと頭を掻いて(女らしさの欠片もない)、本気でいやぁな表情を浮かべつつ。
「14も年が離れてるのにすぐに追い越せそうな男ってどうよ」
姉さんは軽い調子で断言した。
「どうって……」
「そりゃ有能なのは認めるけどさ、なーんか隙が多いっつか、本気で勝負挑んだら勝てそうなトコがやだ」
「た、確かに……」
姉さんは腕っ節も強いし錬金術師としても天才だし、それでなくとも大佐は姉さん相手には本気を出せないだろう。
まあ、そういうんじゃなくて、学者としての頭脳とか、人間性とかを姉さんは言いたいんだろうけど。
「圧倒的に強い相手じゃないと頭なんか下げたくない」
いつもぶすっとした仏頂面で報告書を提出する姉さんの姿を思い出す。
……姉さん、恋愛は上下関係じゃないよ……。
「そっかー、じゃあボクも頑張らなくちゃね」
「ばーか、オレは一度だってお前に勝ったことなんかねえよ」
拗ねた素振りのボクを笑い飛ばして、姉さんは最高の笑顔を惜しみなく与えてくれた。
やっぱり訂正。
恋愛が上下関係なら、ボクは惚れた弱味で絶対この人に敵いっこないんだ。