如何がわしい夜の繁華街を大股に闊歩する少年一人。
その場違いさに通行人達は一様にぎょっと目を見開くが、背後を護る連れらしき鎧の巨漢、加えて文句があるなら殴り倒す!と無言で威嚇する少年自身の気迫に圧倒され、敢えて声をかけようとする者は皆無であった。
……判断力を失った酔っ払い以外は。
「お嬢ちゃ〜ん、キミいくら〜?」
馴れ馴れしくその中年男性が兄の肩に手を掛けてきた時、アルフォンスは……何に目を奪われていたのかは彼の名誉の為に伏せておく。
「一時間さんぜんまん」
気が付いた弟が止めに入ろうとした時には、泥酔した中年は邪険に振り払われた後だった。
金額を聞いて一気に酔いが醒めていた風だったのはご愛敬である。
「――ということがあったんですよ」
「大変だったのねエドワード君」
「別にぃ?一々ボコってらんねえし」
「夜危ない場所を出歩いちゃ援交目的と間違えて売り飛ばされるぜー?」
「だぁれが十羽一からげの量り売りで人身売買組織に売り飛ばされそうな幼女だってェ!?」
「兄さん兄さん落ち着いて、誰もそんなこと言ってないから!」
一人その場の喧しさに加わっていなかったマスタングはゆっくりと口を開いた。
「鋼の、支払いはカードでいいかね?」
……………………。
「うわー!このヒト払う気だ!?」
「畜生高級取りめ大金をドブに捨てやがってー!」
「待てよドブってオレのことかよ!」
巻き起こった阿鼻叫喚を無視し、至極真剣な顔で返事を待つ高級軍人。
マスタングが教育的指導を志す部下によって唸る銃口の餌食にされるまで、あと三秒。