「本当に仲の良い姉弟ね、そっくりだわ」
 
道を尋ねてきた老婦人は、会釈しつつ去っていった。
それをアルフォンスは手を振って見送り、繋いだ自分達の手に目を転じた。次いで顔を上げればばっちりと目が合ってしまい、二人は同じタイミングで破顔する。
「やっぱり恋人同士には見えないのかしら」
嘆かわしそうな声色を作ってホークアイが肩を竦める。
「こんな美人のお姉さんがいたなら、ボクは嬉しいですけどね」
アルフォンスが微笑めば、
「なら悪くないけど」
繋いだ手を離して。ホークアイは姉のように、アルフォンスのくすんだ金髪をゆっくり撫でた。
目線を上げる必要はそのままだが、かつての鎧の巨体はそれよりずっと低く、すらりとした体躯を持つ二十歳前の青年のものとなっている。
 
『全く、君たちはそうしていると実の姉弟のようだね』
 
うっとりと目を細め、しかしやや憮然とした声音でつまらなそうに唇を尖らせる。
仕事の終わらない仲間外れの上司に見せ付けるように、抱き締めてよく似た色の頭の上に顎を置いた。
 
擽ったそうな少年の満面の笑みが、罪悪感に似た苦笑の色で僅かに翳り始めた頃から、ホークアイは彼の実弟と交際を始めた。
 
 
「今晩は泊まっていっても構いませんか?」
アルフォンスはさり気なく、彼女の腕から夕食の材料が詰まった紙袋を取り上げた。
「楽しみだなあ、大尉の手料理」
「ご期待に応えるべく善処するわ」
買い物帰りの姿が、余計に他人の二人を家族として見せていたのかもしれない。
「大尉の作るものは何だって美味しいですよ!」
心からの喜びを滲ませて、取り戻した生身の肉体を享受する青年はその兄に似た笑みを浮かべた。
彼の兄が大雑把そうな外見に似合わず料理が得意であることを、弟だけに食べさせる為に何年も腕を磨いていたことをホークアイは指摘しようとして。
視線を逸らした。
「……そうね、泊まっていく?」
アルフォンスを独り、灯りの点かない部屋に帰すことを思えば。
 
 
 
 
 
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