あの、ろくでなしの父親が二度と帰ってくることはないと悟った時も、エドワードは怒りもせず嘆きもせず、冷静にそれを受け止めただけだった。
最愛の弟に瓜二つの学友が、異世界で寄る辺もない彼を気遣って同居を申し出てくれたから、でもある。
周囲で見ているだけの第三者の方が、気を回し本人以上に大事と感じている場合もある。
かつて、夜ごと秘やかに泣いていた母親が、諦めたようにあの人はああいう人だからと微笑むのを、自分達を気遣い無理をしているからだと思っていた。
しかし一時期とはいえ似たような類の男と付き合いを持ったことで、とうの昔にエドワードは気付いていた。
自分が隣を歩いていようが、気になる美人がいればさり気なく目線で追って。
デート中他の女性にナンパを始めたかと思いきや、悪びれた風もなく置き去りにしていったこともある。
面食らっていた時期もあるが、すぐに慣れた。
あれはそういう病気の持ち主なのだ。一々目くじらを立てるのも面倒臭い。
思いも寄らぬ奇縁で生き別れの父と同居を始め、すぐにその類似に気付いた。
見ず知らずの美女と意気投合し、息子を放って何処かへ行ってしまった背中に、気付いた時には笑ってしまった。母のあれは寂しさではなく呆れた苦笑というものだろう。どうせ共に暮らしていた時から取り繕いもしていなかったに違いない。そもそも罪悪感などないのだから。
あの父と同じ血が流れているとは思いたくないが、或いは同じような男に引っ掛かる自分は意外と母の血が強いのだろうか。
市場で、ふと目に留まった林檎を買おうとしたエドワードは、今の同居人が見知らぬ少女と話しているのを目にした。道を尋ねていたのか、地図らしきものを手にして、時折顔を見合わせ笑みを零している。
物売りに丁重に断りを入れ、背を向けた。
このパターンには慣れている。
決して傷付いたりなどしないが、だからといって何も感じていない訳でもないのだ。
 
 
 
 
 
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でもハイデリヒは誠実だと思いますよ!!
劇場公開前から妄想。