生欠伸を噛み殺しながら待っていれば、手際の良い弟は深皿に二人分のポタージュをよそって、そうして朝食が始まった。
エドワードはこんがり焼けたトーストを齧り、スープを啜った。甘さと塩加減の具合が恐ろしく自分好みだった。
「そのスープ、毒入りなんだ」
最前から無言を保っていたアルフォンスが、薄く微笑みを浮かべた。
食器の触れ合う音が耳障りに響く。
「……やだな、本気にしちゃって。ボクだって同じの飲んでるのにさ」
軽い冗談と言い放つ口調に反して、対面の兄を凝視する視線は一向に弱まらない。
観察するような、嬲るような視線だとエドワードは思う。
「それとも思った?ボクが兄さんと無理心中を企ててるとか」
自分で蒸し返しておきながら、返答を待つでもなくアルフォンスは再び目線を下げてスープに取り掛かる。
完全に興味を無くした素振りで、しかし五感の全てで一挙一動を窺われている。
仕方なくエドワードは匙を持ち上げた。
弟の頭が食事に合わせて僅かに上下する。くすんだ金髪の色は何よりも安心出来る色彩である筈だった。
ポタージュもトーストもスクランブルエッグもサラダも、完璧なまでにエドワードの好みに合わせて調理されている。
マグカップの中には、牛乳嫌いの兄が飲めるように濃い目のカフェオレが微かな湯気を上らせている。
 
いっそ好き嫌いを叱り付けて欲しかった。
 
スープ以外の皿に猛毒が混入されているかもしれない、だとしても唯々諾々と口に運ぶしかエドワードに選択肢は残っていないのだ。
 
 
 
 
 
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個人的には

「カンタレラって、ご存じですか?」

に捧げるオマージュ。極力言葉を削りたかった。




「偶然だね。その紅茶も毒入りなんだ」