10101回目のプロポーズ
※パラレル警報発令中!原作&他の駄文とは違う展開になったと仮定してご覧ください……。
殷周革命も終了し、蓬莱島での歴史の道標との戦いも、ジョカ99%が妲己によって燃やされ、その妲己も始祖と同じく地球に同化することで決着を見た。
一度は始まりのヒト『伏羲』として復活した太公望も、王天君が母と慕う妲己の後を追って地球への同化を選んだことにより、始祖としての記憶を持ちつつも純生100%『太公望』として在ることとなる(ごめんよ王天君愛してるわ)。
生き残った崑崙・金鰲の仙道達は蓬莱島にて生活することとなり、仙界大戦で力を失った元始天尊の代わりに、暫定的な指導者を太公望が務めることになった。
元妲己配下の妖怪仙人達も、胡喜媚が中心となって太公望の命に従うことを宣誓したが、これは婚約者たる(?)四不象に良い所を見せようとする喜媚の乙女心が働いた結果でもある。
勝手に人間界へ赴く者の出ないよう、地球へのワープゾーンを管理することにより、太公望の究極の理想であった「人間界に不干渉な仙人界」が、ここに完成したのだった。
「お師匠様、楊ゼンさん、お茶が入りましたよ」
「ああ、有り難う武吉君」
「うむ、すまぬ」
ここは崑崙山2(太乙により更に改造)の司令官室である。
太公望と、その補佐役たる楊ゼン、秘書の武吉、四不象が現在この部屋に待機していた。
「公主さん達は……ああ、良いっスか……」
「お口に合いますか、異母姉様」
「うむ。やはり茶は熱い内が一番だな」
……後は、何の用事もないのにだべりに来ている竜吉公主・燃燈道人の異母姉弟。
この部屋を老人会の詰め所と勘違いしてるのでは、とは前々からの太公望の弁である。
「異母姉様に気に入っていただけて何よりですっ!」
「ふふ……大げさじゃのう……」
……全く。
実害はないが鬱陶しいこと極まりない。しかし元始天尊に次ぐ古参の二人に苦情を言える者など最早仙人界には存在しなかった。
「僕たちもああ大っぴらにいちゃいちゃしたいものですよねえ、師叔。……師叔?」
いつもなら恥じらって(楊ゼン談)騒ぎ立てる太公望が何の反論もしてこないのに、楊ゼンは声に不審を滲ませた。
「………楊ゼン、」
「はい?」
「この前姫発と邑姜の婚礼に行った時に思いついたんだがのう」
「は?……はぁ」
何かの書類に筆を走らせながら、いきなり今までの会話と脈絡のないことを太公望が話し出す。楊ゼンは訳が解らないなりに大人しく拝聴することにしたらしい。
「二人の婚姻により周族と羌族の融和はより一層深まるであろう。羌の頭領が周王の共同統治者として在ることで、二つの民族の立場は対等となるしの。
さらに二人の間の子供が次代の王となることで、どこにも角が立たなくなる」
「わあ、お師匠様そんなすごいこと考えてたんですねっ!」
「御主人、身内の結婚にもそんなこと考えてたっスか……」
素直に感心する武吉と呆れる四不象。
「それはそうですけど……何か?」
「うむ。それを崑崙と金鰲の間にも使えないかと思ってのう」
一つになったとはいえまだまだ人間出身の仙人と妖怪仙人達の間には溝があるからのう、太公望はそう続けた。
「……つまり、崑崙の指導者と金鰲の代表者が結婚することで、仙人界の融和を図ろうということですね」
「そうだ」
簡潔な太公望の答え。これが何を意味するか……楊ゼンはとくと考えた。
――崑崙の指導者は太公望師叔で……はっ!これはもしや金鰲の王子である僕への遠回しなプロポーズ!?うっっ、嬉しいです師叔!!!
「どうかのう?」
「もっもっ、勿論賛成ですよ師叔っっ!!」
「何を興奮しておるのかのう……まあ良い」
たった今書き上げた書類にぽんと印を押すと、太公望は傍らの武吉にそれを渡した。
「というわけですまぬが武吉、この婚姻届をビーナスの処まで届けてくれ」
「はいっ!」
……………え?
「ちょっと待って武吉君っっ!!!」
「早まったらダメっス!!!」
元気良く返事をしてそのまま走っていきそうな武吉を、四不象が必死のタックルで阻止する。
「面白いことになってきたようじゃな……」
「そうみたいですね異母姉様」
面白半分に観察する暇人姉弟。
「どっ……どういうつもりですか師叔っっ!!?」
「そうっスよ正気に返るっス!!!」
「どうって現在金鰲の妖怪仙人達を統括しておるのは三姉妹であろうが。ビーナスが嫌なら…気は進まぬがクイーンの方にするか?」
「そういう問題ではありません!!!!!」
楊ゼンがキレた。
「師叔ッ!僕という者がありながらあなたは……!!!」
「すると楊ゼン、おぬしがビーナスの代わりに結婚したいと?」
「当然です!!」
「しかし楊ゼン、おぬし昨夜は永遠にわしの副官でいると言っておったではないか」
「ほーう『昨夜』とな」
意地悪く喜ぶ竜吉公主。
「『副官』でなくて『永遠』の方に重点が置かれてるんですっっ!」
「まあそれは置いといてだ」
「強引っス……」
「第一男同士では子供が出来んではないか」
こほんと咳払いをすると、至極もっともなことを言う。
「そんなの太乙様か雲中子様ならなんとか出来ますよ!」
「うぬう、悪魔に魂を売った狂科学者どもの人体実験に付き合いたくないわ!」
本人達が聞いたら激怒しそうな科白である。
「にしても僕は絶対反対ですよビーナスくんとなんかっっ!!」
「わたくしがどうかしまして?」
……噂をすれば影。司令官室の扉を開けたのは、日焼けした強靱な肉体美に包まれた仙人界のプリンセス(本人談)セクシータレント集団雲霄三姉妹(これも本人談)の長女ビーナスであった。
「ん?どうしたのだビーナス」
「あの……太公望様に呼ばれているとわたくしの乙女の勘が訴えましたの」
「すごいね四不象っ!」
「野生の勘っスか……」
頬に手を当て、恥ずかしげに体をくねらせるビーナス。かなり濃ゆい光景である。
「そ……そうか。偶然だのう。今武吉がおぬしに渡すものを……」
「?なんですの?」
「!!!」
時遅し。楊ゼンやスープーの止める暇もなく、後生大事に婚姻届を持っていた武吉からビーナスは書類を奪い取る、というか本人にその気はなくとも勢い余って奪い取っているように見えるのだが。
そして見たが最後太公望に恋するビーナスが結婚を断ることなどあり得ない。
緊張に、太公望と武吉以外の者は息を呑んだ。好奇心全開の燃燈・竜吉も固唾を呑んで見守る。
「………わたくしと………燃燈道人様の婚姻届?」
「「「はあっっっ!!?」」」
眉を顰めるビーナスに負けない位驚く一同。
「うむうむ。実は燃燈はおぬしに一目惚れしたらしくてのう。その逞しさと女らしさにめろめろきゅん(死語)状態なのだ!」
「おうえ、いや太公望!!いつ私がそんなことを……!!!」
「この通り恥ずかしがり屋でのう、思い詰めた挙げ句いきなり婚姻届など書いたりしておるが根は悪い奴ではない。おぬしさえ良ければこやつとの結婚を考えてはくれぬかのう」
口から出任せの嵐が吹き荒れる。
「正義感の塊みたいな燃燈様に『悪い奴ではない』って……師叔……」
「まあそうでしたの……」
「いや、違う……!」
「わたくしは身も心も太公望様に捧げた女……!ああ、でもそんなに情熱的に想ってくださるなんて……わたくしは一体どうすれば……」
このシュチエーションはビーナスの乙女回路のツボにはまったらしい。口では『どうしよう』などと言いつつうっとりとしている。これも太公望の計算の内か。
「わっ、私には異母姉様という女性が……!!」
「そろそろ不毛なシスコン人生からおさらばしても良い頃合いであろうよ」
「わたくしは構わぬよ。蓬莱の空気は清浄ゆえ体も徐々に回復しておるしのう」
「ね、異母姉様……!!」
愛する異母姉にとどめを刺され落涙する燃燈道人。
顔を見合わせてにやりと笑ったところを見ると、太公望と竜吉公主は初めから共謀していたらしい。
「……わたくしの持ち出した異母弟の印は役に立ったようじゃな」
「……うむ、かたじけない公主」
「なんの、おぬしは可愛い弟代わりじゃから」
ひそひそと会話を交わす二人。……弟代わりの頼みで実の弟を陥れる女、竜吉公主。
「ああ、燃燈様……」
「ちっ、近寄らないでくれっっ」
哀れ燃燈道人。仲睦まじい(笑)新生カップルの様子に、今までやや呆然としていた楊ゼンはやっと余裕を取り戻す。ちなみに四不象は未だ硬直したままである。
「……師叔……あなたという人は……」
「結婚相手がわしだとは一言も言ってはおらぬぞ?楊ゼン」
茶目っ気たっぷりに太公望は目配せした。
「仙人界の指導者なぞわしには荷が重くてのう、燃燈にでも頼もうかと思ったのだ。
……大体わしがおぬしを捨てるとでも……わっ!」
最後の叫び声は楊ゼンが太公望を抱き上げたからである。しかもお姫様だっこ。
「師叔……この続きは寝所で伺います」
耳元に息を吹きかけるように、低く抑えた声で楊ゼンは囁いた。
「わっ、こら!今はまだ昼間だ!降ろせ、離せっっ!!」
じたばたともがく太公望をものともせず、小柄な体を抱え上げたまま楊ゼンは扉の方へと歩む。
「まっっ、待て王奕!!550年前のあの夜誓っ……ぐふっっ」
問題発言は、竜吉が花瓶を振り下ろしたことによって封じられた。ビーナスは内容のヤバさに気付いていない。
「きゃあああっ大丈夫ですのダーリン!!」
既に燃燈をダーリン呼ばわりするビーナスを後目に、今度は太公望も抵抗せず二人はそそくさと部屋を出ていこうとする。発言は聞かなかったことにするらしい。
「お師匠様、楊ゼンさん、お疲れさまでしたあ!」
「太公望……幸せにな……」
「御主人…………(涙)」
三者三様の声援に見送られ、司令官室の扉は閉じられた。
――犠牲者一名にて一件落着。
〈了〉