深夜、部屋の戸を敲く者有り。
 
 
 

夜訪

 
 
 
「夜這いに参りました」
 
「わしは眠い。また今度にせい」
 
「拒まれると、更に燃えるんですけど」
 
「なんだそりゃ、犬ではあるまいに」
 
「男のサガでしょう」
 
「そんなもんかのう」
 
「そんなもんです」
 
「ですが実際問題、師叔の躰っていやらしいですよ」
 
「チラリズムっていうか、隠してるのが逆に誘ってるかんじで」
 
寝台に投げ出された手を取って口付け。
 
「ダアホ、ひとの所為にするでない。わしがそーゆー風に見えるとしたら、おぬしの眼が腐っとるからだ」
 
「えー、そうですかー?」
 
「対象をいやらしくしているのは見られる側でなく、見る方だろう。わし自体には何の意味も無いが、おぬしの存在があって初めて『上司』とか『アホ道士』とか『可愛い』等の属性が意味を持つ」
 
「ああ、それはそうですね。結局は価値は相対でしか計れないものですし。僕があなたの隠された部分を暴きたいといつも思ってるから、あなたが魅力的なんでしょうね」
 
「ヘンタイめ」
 
「お褒めに与りどうも」
 
「褒めとらんっつーに」
 
取られたままの手を振り解き、ぴしゃりと甲を叩く。
 
「いてて」
 
全く誠意の籠もっていない声音で、律儀に痛がる素振りだけはしてみせる。
 
「まあなんだ。今からすっぽんぽんになってドジョウすくいを踊れば、おぬしはあっさり帰ってくれるとゆーことだな」
 
「そもそもドジョウすくいは駄目でしょう」苦笑。
 
「なんだ、『あなたなら…』とかお得意のクサい台詞でも吐くかと思ったのに。つまらんのう」
 
「たまには出し惜しみしようと思って。価値が上がるでしょう?」
 
「需要が無ければ意味の無い皮算用だがのう」
 
「じゃあ今から求めて下さいよ」
 
どさり。
 
「ん……」
 
 
困った様に口を押さえ。
 
「……結局こーゆー展開になるんかい」
 
「最初から解ってらしたでしょう?」くすくす。
 
前髪を掻き上げ、額に軽く口付け。
 
眼を覗き込んで。
 
「ドジョウを掬っていても、……あなたならどんな姿でも魅力的ですよ?」
 
優しく囁く。
 
不意打ちに、一気に体温が上昇する。真っ赤な顔を隠そうと衾に手を伸ばせば、途中で男の手に遮られ。
 
絡ませた手を敷布に押し付け、楊ゼンはゆっくり寝台の上に覆い被さった。
 
 
ああしまった、くっちゃべって人の意識を向けるのがこやつのテだったと遅蒔きに太公望が臍を噛む間も無く。
 
 
 
 
――陥落。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
〈了〉

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多分Pillow Talkシリーズ第3弾にでもなるんでしょう。事前だけど(死)。

新学期が始まって更新が滞り、リク作品も出来てないし、切迫観念に駆られた挙げ句。
講義中に書いてたメモをほぼそのままアップという暴挙に出ました。……アップすりゃいいもんでもないだろうよ、あずささん。
おかげで最短です。おまけSSより短いという…。(-_-;;

普段から、頭で考えてるのはこの程度です。スカスカ。実際書く時は動作とか背景とか付け足して倍くらいになるんですけど。
そして実は講義中に書くこともあんまり無いです。七夕SSは珍しく、プロトタイプを授業中に書いてたりしましたが。(^_^;
今回のは「文学と性」講義の内容を反芻していたら楊太言語で奴らが喋り出したので、まあいっかとメモ。日常のあれこれとか、楊太の会話に置き換えて考えてることは頻繁なんですねー(笑)。

今回はルーズリーフの同じ面に細かい字でSSプロット3つ書きましたが、全部
Pillow Talkなのが我ながら厭なかんじです……。
形になってるのがもう一つあるので、リクの前に、そっちを雑に打ち出すかもしれないし、しないかもしれない。