ある朝、ローズ・コトン改めギャムジー夫人が目覚めると、隣で寝ていた筈の夫の姿が見当たりませんでした。
 玄関からは入って右側、窓のない寝室からは現在の正確な時刻は分からなかったのですが、それでもそう日が高くないことは感覚で察知出来ます。
 どこへ行っちゃったのかしら。触っても温もりの感じられない敷布のくぼみを前に、新婚ほやほやのロージーは困惑しました。
 耳を澄ましても家内はしんと静まりかえっているようでしたが、不慮の事態があった可能性もあります。簡単に身支度を整え、彼女は夫を捜しに行くことにしました。
 
「サム?サム、どこなの?」
 勝手を熟知しているとは言い難い屋敷の中を右往左往に探し求めた果てに、ようやくロージーは厨房にサムの姿を発見しました。
「おはよう、ロージー」
「おはよう、ねえ、あなた何してたの?」
 新妻を放ったらかしにして呑気に鍋など掻き回している夫の様子に、少なからず気分を害してロージーは詰問しました。
「そりゃ、井戸から水汲んできて、庭の水撒きして、書斎の掃除をして、旦那の為に朝食の用意をしてたに決まってるでねえだか」
 妻の言を耳にして、その怒りの原因が分からないような、何を当然のことと言わんばかりの口調で、サムは僅かに困惑を滲ませました。
「ああ、そろそろフロドの旦那をお起こししねえと。旦那は低血圧でなかなかお目覚め出来ねえからなあ。ロージー、ちょっと鍋の火を見ててくれ」
 しかしその原因を追及する前に、サムはもっと大事なことを思い出したと言わんばかりに厨房を出ていきました。調理台のテーブルの上には、パンやチーズやベーコンや、食器類がどれも一人前広げられています。
「……………」
 フロド好みの薄味スープを前にして、ロージーは再び取り残されたのでした。
 
 
 
 
 
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フロドは確信犯ですが、サムもナチュラルに嫁を邪険に扱ったりするんですよ。30年以上に渡って洗脳されてるから!
そして朝飯を食べたフロドは「こんなしょっぱいスープを食べさせて、僕を殺す気なのかい!?」とか言いがかりをつけるのです。