欧州の夏は社交シーズンの真っ盛りである。それだけ外せないパーティーも多く、また家族とひっそり過ごす年末年始と違い、地中海の紺碧を求めて大陸中から集まったバカンス客達は解放感のままカジノに金を落としていく。ディーノの生業にとっては一年で最も多忙な、まさに書き入れ時だ。
勿論ディーノはファミリーを深く愛していたので、ボスとしての己の責務を精力的にこなしていた。だが少しくらい自分の幸せを追求したっていいじゃないか、ボスである前に一人の恋する男なんだぜ。
スケジュール管理を任せているロマーリオを拝み倒し、そうしてディーノは幸せの青い鳥の棲む島、愛のエデン、つまりジャッポーネ行きの航空券を手に入れた。勿論つまらない夜会や会食は男らしく全部キャンセルだ。
数日前に国際電話を掛けた時、可愛い弟分は以前ディーノが土産に持参したチョコレートのことを話していた。よし、そんなに気に入ったのなら今度も持って行こう。イタリアのチョコも、ベルギーやスイスに負けてねーだろ?
土産が菓子だけではつまらない。ついでとばかりに書類仕事を放り出して街に繰り出したディーノは、お気に入りのブティークでツナに似合いそうなTシャツを物色した。本当はカジュアルな服だけでなく一流のサルトで礼服一揃いを誂えて、頭の天辺から爪先までぴかぴかに飾り立ててやりたいのは山々なのだが、採寸の為には弟分をイタリアまで連れて来なくてはならない。残念だが、その楽しみは後日に取っておくとする。
そうして準備万端整え、十二時間のフライトを経てディーノは久方ぶりに日本の土を踏んだ。常宿にしているホテルに腰を落ち着ける間も惜しみ、いそいそと沢田家へ赴く。階下の奈々やリボーンへ挨拶した後、とうとうディーノは彼のアンジェロ、可愛い弟分との再会の時を迎えた。今回は前以て知らせずに来たので、きっと驚くことだろう。部下達は玄関先に置いてきたが、階段で転けることもなかった。この時までは、全ては順調だった。
「よぅ、………」
部屋の扉を開けるまでは。
取り込み中の弟分はディーノの来訪に気付く余裕がないようだった。もう少し現実を直視した表現をすれば、見覚えのある灰髪の後ろ姿が、ツナと顔を寄せ合っていた。目にゴミが入ったんだな、あはは大変だな、とディーノは思おうとした。が、ツナの鼻に掛かった甘い吐息や、密やかに、だがしっかり耳に届いてしまう水音が勘違いを許さない。ああ、キスの最中か。
暫く会わないうちに、そんなに大人になっちゃったのか、ツナ……。これを目撃する為に、わざわざ十二時間かけて日本くんだりまで来たのなら、ディーノは果てしなく不幸だ。
だがディーノは十代の少年ではなかったので、ショックを顔に出さぬだけの余裕、或いは不逞不逞しさを具えている。
「よっ!お二人さん」
「んん〜〜〜〜!?でぃ、ディーノさんん!!?」
態と大声を出せば、案の定ツナは仰天したらしい。獄寺を引き離そうとしたのか、ばちーん!
「へぶっ!!」
渾身の平手打ちを食らった獄寺は横ざまに吹っ飛んだ。狙っていた訳ではないが、多少なりとも溜飲が下がるディーノである。
合同誌の獄寺VSディーノなツナサンドですが、獄寺視点バージョンとディーノ視点バージョンの二種類考えて、冒頭までは書いてたんですよね。結局獄寺視点の方を使ったんですが、こちらも勿体ないのでサイトにアップ。冒頭だけですいません。続きまでちゃんと書くかどうかは今のところ未定。