「っっもう!ホント頭きた!!」
激昂しても威厳が無い。迫力が無い。正に無い無い尽くしだ。
こんなのでも一応はドンが勤まってるってんだからボンゴレの栄光も地に墜ちたもんだな。いやいや、これも俺の教育あってこそ。自分の才能が恐ろしくなるんだぞ。まあそれは兎も角として、
「うるせーぞ」
耳を掠めるギリギリの距離で鉛玉をぶっ放してやれば、ぎゃんぎゃん煩い口は流石にぴたりと閉じられた。軋んだ音を立てて、背後の防弾ガラスに亀裂が走る。
今し方まで怒りで真っ赤だった顔色は一瞬で蒼白になってるが、大仰なリアクション程にこいつは俺を恐れちゃいない。妙なトコで不逞不逞しい野郎だからな。
「……話くらい聞いてくれたっていーじゃん」
案の定こいつはすぐに立ち直り、外方を向きながら唇を尖らせたりなんぞしていやがる。餓鬼か。
「そーいった台詞はそこに積んでる書類全部に目ぇ通してから言うんだな」
「だって、お前すぐナポリに行っちゃうんだろ?俺、お前しか相談出来る人がいないのに……」
「……チッ」
潤んだ瞳で上目遣いすれば誰でも言うこと聞くと思ってんのかこいつ。畜生その通りだぞ忌々しい。
相談相手が居ないというのも万更嘘ではなく、他の人間に愚痴でも零したが最後、別れてしまえとの説得に始まり強制拉致に至る一連の展開が目に見えている。
「もう今回ばっかりは呆れ果てたんだよあの馬鹿犬……」
どっかりと皮張りの椅子に座り直してこいつは言うが、周囲から見れば今まであれを許容していたという事実にこそ驚きを隠せない。釣り合わないという以前に何故あれを択一するのか根本的に理解出来ないからこそ、ステディのいるこいつに群がる男女は今以て後を絶たないのだ。
「んなうじうじ悩むくらいなら別れちまえ」
……斯く言う俺も似たようなもんではあるが。
「えーー…」
予想通りこいつは眉根を寄せて言葉を濁す。どーでもいいが色っぽい表情だなオイ。
所詮は犬も食わない類の話だ。いちいちマトモに取り合った方が馬鹿を見るとは俺も承知しちゃあいるんだが。
「てめーが愛情と信じてるソレが単なる貧乏性だって可能性はねえのか?昔のきったねーゴミ部屋思い出してみろ、いつか何かの役に立つかもしれねえって溜め込んでたモンのどれくらいが実際に役に立ったか訊きてーぞ」
「うっ……やっぱそーなのかな……」
「度を過ぎればロンシャン部屋だぞ」
「それはすごく嫌だ……!」
中坊の時に訪れた、ライバルの惨憺たる私室を脳裏に描き、本格的にこいつも黴臭い己の生き方に疑問を抱き始めたようだ。
だが普段のこいつなら、幾らこの俺が弁舌を駆使して言い包めようとしても、絶対に己の判断を曲げたりしない。恐ろしく頑固で、しかも根っこの部分が冷静で計算高い。今簡単に揺らいでんのは、こいつ自身同じ疑惑を感じたことが一度ならずあるからだろう。
最初にあの犬を用意したのは俺だが、今となってはあれを重用するメリットも見出し難いってのが本音だ。あーゆー社会性に欠ける癖に所属欲求ばかりは高いはぐれ犬が簡単にこいつに心酔するようになるのは最初から目に見えていた。
手っ取り早くボスの自覚と自信とを身に付けさせる為だったが、今のこいつは信奉者に事欠いちゃいねえ。主をいい気分にさせるしか取柄のねぇ無能は組織にとって今や必須の存在ではない。
「なぁ、いい加減引導渡してやったらどーだ」
「……………」
ちら、と俺の視線を避けるようにこいつは目を逸らす。
「俺がナポリから戻るまでに決めとけよ」
下手に追い込んで意固地にさせてもつまらねえ。挨拶代わり、ボルサリーノの鍔をちょいと摘めば、途端目線を緩めて
「いってらっしゃい」
間髪入れずに柔らかい声が掛けられる。本当にこいつは気付いているのだろうか?いい加減荒みきった連中にとって、お前の甘ったるさがどれだけの価値を持っているのか。
なあ?俺の可愛いfolletto。
 
 
 
――ナポリから帰還してみれば案の定だった。
「なあなあリボーン!お手柄だったんだよ獄寺君!」
前置きすらそこそこに、ツナは昂ぶった感情のまま俺の首根っ子に縋り付いてきた。小娘みたく可愛らしい仕草だ。誓ってもいいが俺はこんな色仕掛け教えちゃいねーぞ。
「あれから獄寺君、件のボスの所へ押し掛けたらしくって。あのプライド高い彼が土下座して謝って、それから懇々と俺の素晴らしさとか語り倒したらしいんだ。
向こうさん今時珍しい忠義者だってすっかり獄寺君のこと気に入っちゃって、ついでに俺のことも見直してくれたらしくて、同盟には至らないけど協定結ぶ段階まで話が進んだんだよ!凄くない!?」
「あー…そりゃ良かったな」
シャンプー新しいのに変えたか?俺の顎の下でわさわさしている癖毛に気を取られつつ、適当に相槌を打つ。
どうせこんなとこだろうと思っていた。俺の銃は滅多なことではファミリーに向けられる機会を得られない。抱き付かれること自体に異議はないので、よしよしと頭を撫でてみる。
「おい、俺の方が十以上も上なんだからな!」
文句を言いつつもきゃらきゃらと笑うお前。そういうお前の、息子が試験で百点取ったような得意顔は何なんだろうな。
仕方ない、慈悲ってやつは持たざるものにより多く注がれるのが相場だ。あのバター犬はこいつと一緒に風呂も入ったことがないのに違いないことではあるし。下心を剥き出しにしないことでの特典もまあ、存在してはいるのだ。
無防備なボスの旋毛に密かに口付けつつ、俺は変わらぬ日常を笑い飛ばした。
 
 
 
 
 
Allora.

リボ様のキャラ崩しすぎた……。二度とリボ一人称なんか書くもんか!