「元常どの元常どのげんじょうどのっ!」
血走った目で迫って来る郭嘉を視認して、鍾は根拠無く悪い予感を感じた。
「ん、何だね?」
「前々から疑問に思ってたんですけど、今まで一度も文若どのにくらっと来たことないんですかっ!?」
「……えーと……」
嫌なことに予感は的中したらしい。
「あんな美人が身近に居てどうとも思わないなんて有り得ないですよ絶対!密かに助平な目で眺めてるんだろこの親爺!」
既に郭嘉の中では勝手に話が出来上がっているらしく、年長者への敬意も無く襟首を掴んでがくがくと揺さ振る。遠慮の無さも此処まで来れば大概なものだ。
「難解キャラと思い込んでたけど、ギャグパートの君って物凄く解りやすいよね……」
「御託は結構ですからキリキリ吐いて下さいよ」
やさぐれた口調で郭嘉は吐き捨てた。というより何があったんだこの子は。
「や、悪いけどタイプじゃないから」
「あぁ!?あの人に何の不満があるんです!?」
正直に答えたら、余計に激昂された。
「どう言えば君は満足なんだっ!?」
「……ホントですか?公達どのに遠慮してるんじゃなくて?」
「君達は誤解してるけど、公達はそんな料簡の狭い人じゃないよ」
「はあ……」
諭すように説明すれば、納得したのか渋々引き下がる。開けた襟元をおもむろに直して、鍾は小さく咳払いした。
「そう、正直に言えば……私は女性なら出るトコ出たタイプが好きなんだっ!」
「は?」
「間違っても貧乳の女はお呼びじゃない。その点公達のぷにぷにしたお腹なんかもポイントが高い」
「その流れでいくと……」
「そう。文若痩せすぎ」
「……………」
何やら冷たい風が吹き抜けた気がしたが、気の所為だろう。
「いや、本当に肉付けた方がいいよ、健康に悪そうだし、あれは。君からも言ってあげたら?」
「……絶対に言うもんかと思いましたが?」
「ああ、その軟弱な腕で抱き上げるには、あの体重が限界だもんね」
「他人のことが言えるのかジジイっ!!」
「えー?私は筆で鍛えてるからー」
「嘘つけっ!!」
目にも留まらぬ速さで拳が繰り出されたが、やはり威力は低かった。