いい加減にしてくれと言いたい。
「窓を閉めてくれませんかね?」
我ながら刺々しい口調で言い放てば。
「どうしてですか?今宵はこんなにも美しい満月だというのに」
悪びれた風もなくこちらを振り返る長身の男――月影を背負う姿は、やはり誂えたような絶妙さ。
うんざりだ。
未練なのだと、僅かな類似にも目を向けてしまう自分が一番憎らしい。
全く似ていない、そう思って許した自体が囚われている証。
「ご不快にしてしまった?申し訳ありません」
いけしゃあしゃあと詫び、しかし窓は閉めぬまま牀榻に舞い戻ると、宥めるように此方を抱き締める不遜な年下の男。
知性の冴えを前面に押し出した怜悧な面差しは、あれとの共通点など全くない。ただ、月を感じさせるのだ。
皓々たる、蒼褪めた光との近似は、寧ろこの男の方が身に纏うもの。
――なのに思い出すのは。
図々しく擦り寄るこの男をひっ叩けば、少しは気分も晴れるだろうか。
それを実行する代わりに、背中に腕を回した。
いい加減に私を解放してくれ。