両開きの板戸を潜り、手燭の先導するままに僧が通されたのは、古めかしい屋敷の外観からすれば意外に清らげに設えられた一間でした。
「ちょっと待ってろ」
言い置くと娘は席を外したので、随分と僧は一人で放っておかれる羽目になりました。半刻近く経って後に、やっと娘は酒肴を手に戻って参りました。
「ええと、他に人は……」
給仕を受ける段に至っても、娘が屋敷の身内か使用人か判断付かなかった僧がおそるおそる切り出すと、
「今は俺がここの主人だな。他に家族はいない」
平然と娘が述べるので、僧は今までの言葉遣いを鑑み大いに慌てました。
「他に世話する奴もいないしな。使用人とゆーか、館の管理を手伝ってくれてるばっちゃんと孫も日が暮れる前に帰るから、俺がいなけりゃ行き倒れてたぞ、お前」
恐縮する僧に対する娘の言いぶりは、恩に着せるというより負担にさせまいとする軽口でしたので、僧は勿論感謝しました。
寺では他の僧が呑む際にも決して手を付けなかった般若湯を恐る恐る口に含み、娘の身の上話を聞き出しました。
父の死後、女手一つで屋敷を守っていた母は貧困の中で病死したこと。亡き父は都では高名な陰陽師だったこと。その縁故で娘自身も今では宮中に出仕していること。四年ぶりに故郷へ里下がりしたこと。
それに応えるように僧も、少ないながらも記憶にある限りの生い立ちを語って聞かせました。
初対面にも関わらず、二人は十年来の友人のように打ち解けて、都の話題や学問の話、その他にも色々なことを話しました。
見知らぬ屋敷は、まるで我が家の温かさで僧を迎え入れているように感じました。
微酔いの目で見る娘は、鄙女の粗野さと都女の洗練を同時に備えた、不思議な存在でした。意志の強さを体現する琥珀色の瞳に気押されつつも、僧は出会ったばかりの娘に完全に夢中でした。
――深更、用意された寝間を抜け出した僧が忍び来るのを、予測していたことのように娘は迎え入れました。
衣擦れのもどかしい音を立てて帯が解かれた時、娘が大きな眼を細めて微笑んだのを僧は見た気がしましたが、或いは暗がりにおいての錯覚であったかもしれません。
大半が意味をなさない吐息と睦言の合間、熱に浮かされたように何度も僧は繰り返しました。
還俗して、きっと添い遂げる。
一生共に居て、貴女を守る。
この里で、二人で畑を耕して暮らそう。
娘は応えるように、自分を蹂躙する男の背中にしがみ付きました。
全てが終わって眠りに就く間にも、娘の手は記憶に遠い母のように、僧の短く生え始めた金の髪を撫で続けていました。
〈続〉
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なんというか裏にコーナー作るのが面倒なので濡れ場も暈かして堂々と置きます。多分三国志ならこれでも裏行き(詐欺)。自作短編1も本音では裏に回したい……。
ってゆーかやっぱり女体化なんですかね?(聞かれても)