「そこにいるのは誰!」
誰何の形をとった宣戦布告に、慌ててアルフォンスは無害な少年を装った。
「……アルフォンス君?」
リボルバーを両手で構えたホークアイは、意外な場所で出会った知人の姿に目を見張ると、取り繕うように突き付けた銃口を下ろす。
その無表情に狼狽と後悔とを透かし見て、アルフォンスは内心有利を確信した。
「あなた、何故」
「それよりもホークアイさん!この人が…!」
殺気を感じて咄嗟に盾にしていたのが役に立った。瀕死の男を支えているように映る体勢で、上半身にべったり付着したどす黒い血は今も染みを拡大しつつあって、古い返り血とも一緒くたになっている。
「兄さんとはぐれちゃって、そうしたらこの人が倒れてたんです」
助けを求めるように縋る目を送れば、ホークアイはちらと上方に目を遣った。
マスタングの捜索中だったに違いない、口惜しそうに唇を噛んだのは一瞬で、感情を切り替えたらしい。看護士の表情で、目の前の重体患者に視線を向け直した。
「ストレッチャーを持ってくるから待ってて」
言って一度踵を返す。
「……本職でもないのに忠実なことですね」
聞こえぬを承知で呟いた。
職業倫理というよりも、彼女の善良さから来る甘さだろう。
我が兄を思い出し、アルフォンスはホークアイが戻る前に小型無線のスイッチを入れた。
「こちらアルフォンス。……何、エンヴィー?
…ああうん、始末する筈が邪魔が入ってね。うん、一旦搬出するから人を回しといて。ラスト?別にいいけど。
あっちの方も兄さん次第だから……そう、念の為。
責任?誰にもの言ってんのさ」
吐き捨て無線を切ると、アルフォンスは意識を失いぐったり横たわるキンブリーを、踵の先で足蹴にした。
「ああもう、面倒臭い」
倒壊間際のビル内に居残る悲愴感の欠片なく、少年は兄に似た仕草で唇を尖らせる。
“患者”の塞がりかけた頬の傷に、ホークアイが目を留めていたことには気付いていない。
アルが黒通り越してエライことに by馨
リザさんの正体は珍しく二人で事前に話し合いました(というよりネタ話の流用かも)。 by梓