重厚な扉を大儀そうに開ける音に顔を上げれば、
 
「おかえり、望ちゃん」
 
呆然とした表情でその場に佇む、親友の姿があった。
 
 
 
 
 

懐かしいの思い出   

                   い花咲いた。

 
 
 
 
 
 
 
 
「なんだ、このような夜更けに」
望ちゃんがお風呂に入ってる間にこっそり忍び込んだんだよ、と言っても良かったんだけど。まあそんなことは一目瞭然かな。
部屋に入ったまま所在なさそうにしている望ちゃんの頭にタオルを被せかけた。お風呂上がりと言ったらこれだよね、ああシャンプーのいい匂い。用意した甲斐があったな。
望ちゃんは貌を真っ赤にしている。……可愛い。
「一人で出来るっつーの」
照れ隠しの仕草も子供っぽい。ちょっぴり惜しかったけど、言われるまま手を離した。
そして。
「うん、……一緒に寝ない?」
なるべく警戒心を持たれないように、自然に提案したのだ。
 
 
 
 
 
「なんか、久しぶりだね」
「う、うむ……」
広い寝台の上。温もりを分け合うように、顔を寄せ合っている。望ちゃんは、衾の中に潜り込んでしまった。
やっぱり恥ずかしいみたい。そんなちょっとした仕草も、昔から変わっていない。
自分の住む玉虚宮を、どれも大きくて装飾過多だ、と望ちゃんは言う。崑崙山の中枢としてそれなりに立派にしておかなければならないという、ハッタリ的な意味もあるのだとは解っていても、理屈ではなく生理的に気に入らないらしい。
そうでなくとも元始天尊様は建物に拘る人だ。外面、と言ってもいいかも。
大改装を繰り返して、自分の権力を誇示すると同時に十二仙の忠誠心を調べている。僕の前に十二仙だった人は、天尊様に逆らった所為で殺されたらしいと聞いた。
……立派な寝台に違和感をずっと感じ続けている望ちゃんの無欲さが、だからこそ愛しい。
かつて、今は閉鎖されている隣の部屋に僕が住んでいた頃は、寝台の大きいのを良いことにしばしばこっちの部屋に泊まっていた。……自分でも気付いていなかった本心を指摘されるまでは。
「しかしおぬし、自分の洞府はどうしたのだ」
ふと不安になったらしく、望ちゃんは問い掛けるけど。あの子達には邪魔したら破門って言い渡してあるし。
「一晩くらい大丈夫だよ」
「ふぅむ、……まあおぬしの弟子は師匠に似て、皆しっかり者だしのう」
「望ちゃんに誉められても嬉しくないなぁ」
間接的に僕を誉めてるのだとしても、やっぱり口惜しい。そう思って言ったのだけど、ふて腐れた望ちゃんは背を向けてしまった。
「それにねぇ」
ああ残念。顔が見えなくなっちゃった。でも首から背中にかけてのラインもそそるなぁ、ふふ、眼福v
「これからは長い間、こんな風に一緒にいられなくなるでしょう?」
ビクリ。そのラインが緊張に強張る。
相変わらず、僕の前では望ちゃんは隠し事が下手なんだから。
「何故……」
知ってるのかって?
「やだなぁ、これでも僕だって十二仙の端くれだよ?」
……間に合って良かった、この瞬間に。
「そうか、元始天尊様と十二仙が立案したとか言っておったな、あのジジイ……」
 
封神計画。
 
「水面下では、大分前から進んでいたみたいだね。新入りの僕には詳しいことまでは知らされてないんだけど……」
それどころか、他の十二仙も詳しい内容を知っているかどうか。秘密主義だから、あのクソジジイ。
でも計画のことを聞いた、ううん、気配を察した時から望ちゃんがそれに関わっていることは気付いてた。……僕がその為に用意されたことも。
「黙ってて、ごめんね?」
でも望ちゃんにはそんなことまでは解らないし。
「仕方ないであろう。仮にも機密事項をぺらぺらと話すようでは、崑崙最高幹部など務まらんわ」
物分かりの良さそうなことを言ってても、口調がそれを裏切ってる。
全く、素直じゃないんだから。それがまた可愛いんだけどね。
「……で、どうするの?」
あんまり可愛いんでちょっとつついて遊んでみる。ふふっv
「まだ決めておらーぬ」
「ウソばっかり」
にじり寄ると、その肉付きの薄い肩に手を掛けた。
「〜〜〜〜〜っっ」
案外素直に、こっちの方を向いてくれる。口を曲げて、泣きそうな顔。
……あ、ダメ。理性が保たなさそう……。
「僕は、望ちゃんが何を望んで頑張ってきたのかよく知ってるから」
はっと、目を見開いて僕を凝視する。
「この機会を逃す気なんてないんでしょ。……何を迷っているの?」
白い手が、しがみつくように僕の夜着を握り締める。ああもう、僕だって崑崙で一二を争う可愛らしさだけど、望ちゃんだって爆裂可愛いよね。いっつもアホ面さらしてるから気付かれにくいけど。
この稚い貌を知ってるのは僕だけ、だよね。
「……怖ろしいのだ」
どこか放心したように、呟く口調もどこか幼い。
「おそらく、半端なところでは引き返せぬ。いくら必要最小限の犠牲に留めようとしても……」
優しい望ちゃん。
千死ぬのを防ぐ為に、百犠牲を出さねばならないこともある。そう割り切れたら楽なのに。こんなところが僕と気が合ったんだけど、望ちゃんはもっと優しい。
でも苦悩する姿も色っぽい……。あ、ダメダメ。密着した状態で動揺しちゃったら不審に思われちゃう。
「望ちゃんらしいね」
誤魔化す為にも、いつもの僕らしい笑みを浮かべる。ニヤけてなきゃいいけど。
「……だからって、僕に替わってくれない?」
「馬鹿にするな」
「……って言っても、これなんでしょう?」
睨まれても、迫力はないけど。
その胸の奥に、ギラギラと光る刃が見える。瞳に映る炎の輝きに魅せられた時から、既に僕の運命は決まっている。
紅き炎は、今も彼の内で燃えている。望ちゃんは最後までやり遂げるだろう、どんなに傷ついたとしても。そのことが、痛々しい。
「……望ちゃんなら大丈夫。いつだって、僕は見ていてあげるから」
いつだって、僕は傍にいる。そう誓って以来、その痛みを共に背負っていきたいとずっと思い続けている。
今までがそうであったように。
十二仙になって以来、余計な枷が増えてしまった所為で、これからはずっと隣にいることも出来ない。でもいざという時にはどこにいたって駆け付けるから。
ああっ、でも僕の居ない間に悪いムシがついたらどうしようっ!?
どうしようどうしよう、計画の為にはそうそう殺して回る訳にもいかないし……。
狼狽える間にも、望ちゃんはいまにも寝そうになっている。この件に関しては後で考えよう。
「うん、いいから寝てて。……お休み」
結構寝付きがいいんだよね。
しかも一度寝たらなかなか起きないから、悪戯し放題vうふふふふ……役得vv
「うん……、ぉ…………」
ことりと、頭が沈んだ。
髪を梳いてあげる。起きてる間は、僕は望ちゃんの家族。だから後で好き勝手させてね?
 
 
 
揺れる碧の瞳が閉じられた。その瞼に、口付ける。
 
 
 
 



 

まだ、さよならは言いたくない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 








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7500ゲッター様、毎度お馴染みの桔京院祇音嬢のリクエストです。お題は同じく『普太』。
姉妹編の翔姐さんのリクとは、同内容でシリアスとギャグと予告してましたが、……なんか、ギャグと言うより普賢下心編になってしまったような気が……っ(>_<。
最後までギャグを貫き通せなかったのが心残りです。畜生。

タイトルは今市子の漫画から。内容的には関係ないっス。
普太は、花のイメージなんですよね、なんだか。
望ちゃんから見た普賢が白い花で、普賢から見た望ちゃんが紅い花。お互いの姿がそう見えるのは主観的なものもあって、本当は太公望が白くて普賢が紅いかもしれない、とも思いつつ。
合わせ鏡のような存在、ですか?(質問されても困るし)

しかし、楊太じゃない話が最近続いてますが、「ここって楊太サイトじゃなかったっけ?」という疑問、皆様お持ちのことでしょう。私も持ってます(死)。
今後もリク作品の消化を主軸にやっていくつもりですが、ここから先は楊太リクが続いているので(そりゃあもぅ溜めまくってます/涙)楽しみ楽しみvv
太公望さえ出てれば、楊太じゃない話も大好きですが。やはり自分は楊太人でした(笑)。読むのも書くのも。
……しかし。今数えてみれば、楊太じゃない話の方が多い?ひょっとして……(死)。がびーん。

それでは、祇音嬢。
まだまだリクを溜めてますが(死)、もうしばらくのお待ちを……。