戦争と平和






麗らかな午後の日差し。そう、平和、という言葉がよく似合うような……。

久しぶりの里帰り。

そんな陽気に誘われて、庭掃除でもしようかと洞府の玄関を開けた、玉泉山は金霞洞きっての俊英であるところの清源妙道真君楊ゼンは、その際見てはいけないモノを見てしまった。

「あれ?楊ゼンってば帰ってたんだ」

にっこりと、清らかさを感じさせる笑みを浮かべ、普賢真人は首を傾げた。空色の髪、菫色の瞳と相まって、巷では天使の笑みと称されているそれである。

しかし楊ゼンは、額に汗を浮かべ棒立ちになるのみ。

『玄関を開けたら普賢が居た』という彼にとって不条理な現実を直視するだけで、その天才と呼ばれた頭脳は手一杯らしい。

間違いなく言えるのは、この瞬間に彼の不快指数がMAXにまで跳ね上がったということだろう。梅雨も真っ青、というやつである。

「玉鼎居るんでしょ?入らせて貰うねーv」

「!!!」

もはや反射で、楊ゼンは玄関の扉を閉めた。目の前で扉が閉まるのにも気を悪くした様子はなく、普賢は笑みを浮かべたままである。

「………うちの師匠に何か御用ですか?」

再び戸を開ける。しかし、自分の体ぎりぎり、その隙間は余人を通さないという意志に満ちている。愛想笑いを浮かべつつ楊ゼンは尋ねた。

衝撃から立ち直った後には、不貞不貞しい天才道士が残される。敵との戦いに闘志を燃やすその姿は、タチの悪い訪問販売に引っかかるまいと意気込む主婦の姿に似ていた。

……楊ゼンは気付いただろうか。そんな、警戒心ばりばりの主婦に限って靴紐や、歯ブラシや、つまらない物を最終的には買わされてしまうという悲しい事実に。

「んー、玉鼎に言う前に君に言っといた方が良いかな?」

そんな楊ゼンの様子など柳に風とばかりに受け流している普賢は、右手の人差し指を顔の横に立て、可愛らしく小首を傾げる。そんな、小動物を思わせる仕草も、楊ゼンの怒りに火を注ぐのを目的としていることが判るだけに、片方の眉を上げただけで楊ゼンは反応しなかった。

「何をですか」

嫌々尋ね返す楊ゼンに対して、普賢は爆弾を投下した。





「ねえ、望ちゃんの代わりに玉鼎くれない?」

「イヤですよ」

即答。

「じゃあ玉鼎いらないから望ちゃん返して」

「冗談じゃありません」

またもや即答。

「つくづく我が儘だねー」

とりつく島無い楊ゼンに、普賢は呆れたように溜息を吐いた。

「……それはあなたの方でしょう」

こめかみを引きつらせつつ、楊ゼンも応答する。

「かっわいくなーい」

「年下に可愛いと言われても」

「格下に可愛いと言われたくないし」

「……………(怒)」

楊ゼン、不利。

顔だけは笑顔のまま、じりじりと間合いを取る両者。

太極符印の様子を警戒しながら、楊ゼンは後ろ手に三尖刀を出現させようとした。

が。

「私がどうかしたか?」

「し、師匠!!」

急に掛けられた声に、楊ゼンはつんのめった。

緊迫した空気は、表の騒ぎに何事かと出てきた玉鼎によって霧散する。

「ん、普賢。何用だ?」

「別に?暇だから来てみただけvv」

猫を被った悪魔に気付くこともなく、玉鼎は普賢を促した。

「ならば茶でも飲んでいくと良い。楊ゼン、手伝ってくれるか」

「はい、師匠……」

仕方なしに後に続く。

何も知らない玉鼎の所為で、敵を家に上げることになってしまった楊ゼンの心中は複雑である。そして、わざと玉鼎にすり寄るような行動を取りつつ、普賢はちらりとそんな楊ゼンの様子を眺めて笑みを零した。





そうして居間へと妙な空気を発する一行は辿り着いた。

「あっれー?お客さん……って、げっ」

ソファーの上、リラックスした様子で片手を上げ、そのまま硬直したのは黒衣の仙人。

「何時の間に……」

「先刻庭から入ってきたぞ。気付かなかったか?」

愛弟子にのんびりと解説する玉鼎に対し、太乙は二大いじめっ子の出現に顔を蒼くするばかり。どうやら楊ゼンの里帰りも知らなかったようである。

そして。

「珍しい取り合わせだのう」

その太乙に凭れ掛かるようにして茶菓子を頬張っているのは。

「望ちゃん!?」

何時になく狼狽した普賢の様子に、他の皆は驚く。

「太公望が来ているのを知っていたからこそ、普賢が来たのかと思ったのだが」

不審そうな玉鼎の言葉に、楊ゼンは二重に驚いた。『くれ』とまで言うからには、てっきり何度もここを訪れているものだと思ったのだが。

「聞いてた!?」

「何を」

不審気に眉をしかめる太公望。その口に付いた食べ滓を指で拭き取りながら、普賢は何時になく真剣な貌で見つめた。目を潤ませると、感極まったように抱きつく。

「ごめんね望ちゃん!!もう玉鼎と浮気しようなんて考えないからっっ!!」

「むぐっっ!?」

喉に餅を詰まらせる太公望に構わず、ぎゅうぎゅうと普賢はしがみつく。

無言で、楊ゼンが三尖刀を取り出した。

「やめ………」

仲裁に入る玉鼎は、太乙の冷たい視線を浴びて固まる。

「誤解だっ!!普賢はただの弟弟子で……それは、可愛いとは思ったことはあるが、あ、いやそうではなくっ!!!」







惨劇の幕が切って落とされる音を聞いたのは、偶々部屋の近くを通りかかった道士の一人であったという。

後に彼が証言したところによると、その音は、とても爆発音に類似していた……らしい。













<了>

御津祇園嬢への頂き物感謝作品。お題は『玉普』・・・。
最早、自分でもどこがそうであるのか不明です。
リクを外すのが最近の趣味と化しつつある今日この頃。満足にリクどおり書けた例すらないような。でもどんどん外れ具合が酷くなっているのは確かな事実でしょう・・・。
やまなし、オチなし、意味なし。これぞ本当のやおい!!!(殴)
以前の玉乙や、My設定的にある楊vs普を大事にしすぎた結果こんなことになりました・・・。
すまない、祇園嬢。貴方の作品のノリにも似てませんか???(こらこら)
そして、快くネタリサイクルを了承してくれた桜杜翔嬢にも感謝。

・・・・・と、これだけでは流石にあんまりなので、シリアスモードのおまけを後日アップします。この話とは続いてない・・・でしょう。多分。


しましたが、おまけ。・・・そっちのほうがよっぽど本編クサ。太邑辺りと分量も変わらない気が(?)ま、激短編ではありますが。
しかも定番ネタ、やも。・・・そんなんでも見てやろう、との心優しき方(こんなところまで読んでいただけてる時点で優しさ確定ですけど)はどうぞv



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