☆NOVELS(小説)
辛口というより暴言多々。
……結局お奨めは『秘本』と北方、藤水名子ってかんじですか。
吉川英治『三国志』 | (二),(三)巻(全八巻中) 講談社 吉川英治歴史時代文庫 |
日本人三国志の心の故郷。光栄ゲーム世代以前は吉川か柴錬で入った人が多かったらしい。横光の原作。管理人は2・3巻のみの読者なので、吉川知らねばモグリなこの業界(ってドコよ)での発言権はムチャクチャ低いと思われます。 あくまでも「言動から性格は推し量れ」な演義に、心理描写を加味してキャラ立ちさせたという功績は無視出来ないと思われ。ネタにしやすいし(笑)。結果そのキャラが日本人的お涙頂戴モードになっても、もうこれは作者の性格の問題でバッシングの対象にはならないかと。 ……ま、間違えて張3度殺してる(らしい)し、曹操格好イイと言いつつも結局は蜀マンセーきっついんですがね……。孔明登場後は怖くて読めない。 5年程前、平積みしてるのを手に取って開いたページが「さすがは孔明先生!」 パタン……。(−_−) そのまま書店から立ち去りました(死)。 最近は董昭がしっかり美形なのが、一番ムカつく(笑)。 |
安能務『三国演義』 | 一〜四巻(全六巻中) 講談社文庫 |
オリジナル小説のタイトルに「演義」つけるなよ(苦笑)。実際演義とストーリー変わらないっぽく見えかねないが、自ら加えた演義解釈の辻褄合わせの為にエピソード自体を改変してたりして、微妙にオリジナル。でも解釈自体には納得するところ多し。 張飛がかなり依怙贔屓されまくりの主役。張飛を慕う妙に幼い趙雲。あと赤壁とか、演義での格好悪い周瑜に泣かされた方は、ここの描写にささやかな慰めを見出すかもしれません…。 ただ気になるのは、妙に人物の喋りが幼く聞こえたりするところ。私の中で、李粛は「じゃねえ」の人になってしまった(死)。ナニ女子高生みたいな会話交わしてるんだよ、呂布&李粛。 ……しかし何がどういう風に道教的なのかわかんなかったんですが。ごめんなさい。 しかしこの作者、翻訳に見せかけてオリジナルってパターン多い(封神とか)。誑かされぬよう注意が必要。 |
陳舜臣作品 |
『秘本三国志』 全六巻 文春文庫 |
『秘本』は新解釈という点では未だ他の作品の追従を許さないのではなかろうか。傑作。五斗米道中心、とか仏教絡めてくる辺り(北方もやってるが)主眼の置き方が違いますのう。……三国平等に見えて呉は黙殺気味とはいえ(汗)。 しかしあの凄まじいばかりの八百長乱舞はなんなんだ……。一つなら納得するかもしれないが、みんながみんな裏で手を握ってても怖いっス。大人ってキタナイね(笑)。 んでもって『孔明』はまだ良かったが、『曹操』はあんまり面白くなかった気が。曹操の初恋の従姉出すのはまだいいんですが、実は陳さん、女性書くの上手くない。 それぞれの作品はリンクしてないみたいですけど、『秘本』と『孔明』での周瑜の扱いが似てたり、『曹操』と『十八史略』の何晏がアレだったり(汗)、陳さん個人の統一見解が垣間見られて笑えます。陳さん、物凄く何晏嫌いでしょ。むしろこれは貶す愛?(大笑) 対談は結構常識なことを一生懸命主張してる。この人が主張したから常識になったとしたら凄いことだ。初出は90年代前半みたいですが……。陳さん一人で喋ってるっぽいですが対談なんてソンナモノダ。 |
北方謙三『三国志』 | 全十三巻+別冊『読本』 ハルキ文庫 |
右翼作家の書いたエセ三国志ハードボイルドと言われれば頷くしかない面もあるが(何で呉が共産主義なんだよ)、……イイじゃん、面白いんだから(笑)。 だって無闇にホモ臭いし!流石ハードボイルドだ(誤った認識)。今まで出た三国志モノの中で一番、自分なりの消化と物語の私物化を行ってる作家だと思うんですが、正史正史言ってるクセに華雄斬るのはヒゲ魔神なんですね……(遠い目)。女の扱いが悪いのもハードボイルドならではかも(つーか女書くのが上手い男性歴史小説作家、皆無…)。劉備一党の思考は天皇象徴主義的というか、日本人の書いたモノ臭いです。この辺が右翼的と言われる所以か。 ミーハーな話をすれば、孔明と周瑜が仲良かったり、荀マドンナ化現象に善哉善哉。管理人としては蜀文官の出番を喜んだり、凌統×陸遜に萌えてみたり。そして曹丕とシバチューが……ふふふ。 なんだかんだで今一番お奨めしたい『三国志』ですねえ。譫言の曹操×荀論も見て頂けると幸い(ネタバレ含)。 |
鄭飛石『小説 三国志』 | 町田富男/訳 (上)・(中)巻(全三巻中) 光文社文庫 |
思わず作家を「てい・とびいし」呼ばわりしてみたり(「ちょん・びそく」です)。国内作家か外国人作家か、そして五十音順のどこに置いてるんだか書店で探しにくいこと甚だしい韓国の吉川英治(らしい)。 演義を上回る劉備ヒーロー化・曹操悪役化によってとんでもない場面で歴史の捏造が行われるぞ!呂布や、あまつさえ袁術すら善人化。怖。小説としてのレベルはハッキリ言って低いですが、ネタ的に劉備受の人と趙雲×糜夫人(私以外にいるのかな…;)の人は必読かと思われ。 曹操悪化のアオリで、なんと荀まで「アンタ李儒か!?」と言いたくなる凄いキャラになってたり。美少年事件とか(笑)。「老練」と評される度に「いや、練れてるけど老いてないし!」とか反論する読者一名……。あんなのが急に漢王朝云々と言い出してもアレなので、いつの間にか物語から退場してましたが、ひっそりと楽隠居後大往生してたらいいんですけどねぇ、物語改変ついでに。(^^;) ので、荀出てこない下巻は立ち読みで済ませましたが。……姜維が○○ることが(伏せ字)蜀ファン最高のラストですか、そうですか。 |
榊涼介『鄭問之三国誌』 | 全三巻 メディアワークス |
何で「誌」なんだ?とか、鄭問って漫画家なのに何で小説の冠詞に付いてんだ?とか、様々な疑惑を呼び起こす三国志小説。同名ゲームのタイアップとして売り出されたから、というのが真相っぽいですが。しかしゲームはシミュレーションなので、原作という訳でもノベライズという訳でもなさそうな……。鄭問、台湾で同名漫画描いてたりするんですか? 中身に関しては曹操が主役で、かなり読みやすいタッチ。ビジュアル的にインパクトが強いシーンが多かったりする(宦官どもに何進が殺されるトコとか)辺り、やはり漫画の原作があるのではという疑惑を感じますが…。そうなるとどこまでが鄭問の発案で、どこからが榊涼介のオリジナルなのか、作品の評価がし辛いですなあ。 それぞれのキャラが立ってるのが、読みやすい主要因。敵役にも、なんだか魅力があって。州の乱が袁紹黒幕ってのは面白かったにゃあ。 オリキャラの花梨ちゃんも、なかなか好感度の高い子です。曹操軍みんなに可愛がられてる境遇は羨ましいですが、男勝りな武芸達者なのが清々しい。 ただ、終わり方が唐突なのが残念。赤壁で敗戦してジ・エンド。最後に付け足しのように、メインキャラのその後の動向が書かれてましたが、いっそ書かない方が良かった……。 巻頭に、鄭問のキャライラストが各巻数人ずつ載ってましたが、……荀攸キモイ(汗)。沮授は美女のようです。 |
三好徹作品 | 『興亡三国志』全五巻 集英社文庫 |
『興亡』は歴史小説ではなく大いなる曹操プロパガンダ小説。私的評価ではそれ以上でもそれ以下でもない。 蜀呉に関しては完全に演義の焼き直しなので読んでて詰まらないこと限りないが、曹操周辺に関してのみはイキイキと活写。 激情の詩人・曹操の、陳宮や荀とのメロドラマ的関係が物語の縦糸になってると思うのだが、この小説を気に入るか否かはオリキャラ鄭欽に好感を抱くか否かに懸かっているとも思う。つか私が鄭欽ラブ。 単なる曹操自己弁護・曹操マンセー小説になりかねないところを、アンチテーゼ存在としての鄭欽が上手く客観性を提供してるんではなかろうか。 蜀呉部分はクソだが魏のパート、曹操と鄭欽の対比に関してのみは傑作の評価を与えたい。 『外伝』はマイナー人物ぱかりにスポットを当てた、短編小説集。ってゆーか、よくぞ虞翻や孟達主役で小説書いたよ。その心意気や善し。 甄皇后・孔融・臧洪・許靖・虞翻・荀・夏侯月姫(張飛の妻)・諸葛瑾・賈・楊脩・孟達・張温・徳・馬謖・諸葛恪・曹植が、主役張ってます。 元々雑誌連載してた分だけに、時代背景の説明とかの重複が目立ちますが、まあまあ読み応え有り。何が袁紹と共に冀州に居たりする辺り、結構事実関係は無視気味かもしれない。 そりゃもちろん荀目当てで買いましたが(笑)個人的に面白かったのが、許靖・虞翻・賈・楊脩・張温辺りでした。どうも荀さんは、脇役として配置した方が光る人材らしい。 そして似たようなポジションというか、王朗裏主役ですか?と(笑)。臧洪・許靖・虞翻の話で、非常にインパクト強くキャラ立たせてました。どことなく王朗×許靖風味(ヤメレ)。ここまで王朗が目立っていた三国志小説がかつてあっただろうか!?(反語) 最初と最後を例の二人で〆てるのは、あざといと言えばあざといですが。散漫になり気味な短編集としては、良い感じにまとまってるかも。 |
宮城谷昌光『三國志』 | 一〜五巻 文藝春秋 |
宮城谷氏はまさか三国志書くとは思ってませんでしたが、桓帝時代から書くとも思わなかった……。 二重に吃驚と言っていたのはかつての話、待ちくたびれた頃にようやっと単行本化。完結するまで本にはならんのかと戦々恐々だったが、それじゃ文春も商売あがったりですわな。後半どの辺りの時代まで書くのかは天と作者(或いは出版社)のみぞ知るといったところ。1〜3巻は第一期と銘打たれている。が、別にキリが良いとも思わな…ゲフゲフン(咳)。内容の半分が(2巻の途中まで)俗に言う三国志キャラ抜きで進められる恐怖の三国志。しかも充分以上に刺激的だし(笑)。 内容はまあ、歴史小説家として凄い、素直に口開けて見上げてるんだが、なんとなく『後漢書』のノベライズではないかと思う時もある……。まずは史書の記事を一旦は鵜呑みにするんでしょうな。その後咀嚼・検討して。作中には宮城谷説もバシバシ入ってるんだが、この人自身の感性が天人感応説というか、伝統的な儒家史観に近いから。身も心も当時の人になりきってるという意味でとんでもない歴史小説家だし尊敬に値すると思う。 内容について個々の感想と言えば、何進萌え!!とか衛茲キター!!とか(笑)。なんて頭の悪い読者……。 |
酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』 | 1〜2巻 文藝春秋 |
宮城谷が正統を極めたなら、酒見は異端を極めたというか(笑)。演義に出発して(間違っても正史からではない)、人類はとうとうこんな極北の地に到達してしまいましたよ母さん。 連載してる時は2ヵ月に一回、しかも別冊文春見付けられなかった時も多かったし、時たま立ち読み大笑いして(恥ずかしいですよ)良い腹筋の運動になっていたというものだった……が。 これがハードカバー一冊丸々ノンストップで来られれば、マジ呼吸困難で命の危険に晒された。危険な殺人小説。 そして内容と言えば帯の作者談「ほんとうの孔明はこんな人じゃなかったと思う」が全てを物語っていると思うのだが、………嗚呼駄目だ、生半可な説明ではこの面白さは絶対に伝わらないっ!!(悶絶)うおおおお。一巻で出廬まで、二巻で長坂坡までと、一冊の分量に比べ時間の流れは限りなく遅い。 小説形式を取っていたかと思えば突然酒見の孔明観の語りが混入し、かと思いきや演義を読んだ個人的感想を言ってる内に視点は登場人物の方へ流れ、何やら登場人物の起こすリアクション、そこですかさず作者のツッコミ!どこまで真剣でどこから冗談なの?って悉くが冗談の範疇なんでしょうな。 既にこれは小説なのかエッセイなのか評論なのか、ミソもクソもごっちゃまぜに闇鍋の中に落とし込み、ドドメ色の謎の液体は時々音を立てて爆発するよ!そんな縦横無尽の酒見ワールドが炸裂。 しかしこれは小説以外の何物でもないのであった………しかも超弩級の。 別に昨日と今日とで作者の孔明観が違ってきたとしても小説内の孔明に何ら揺らぎはなさそうで。しかし、作者の膨大な思惟の渦は確実に作品世界の内部を蝕んでいく……ひょっとしてこれはホラーなんですかね、どうだろう。読者からすれば、デビュー以来の酒見氏の鬼才っぷりが相変わらず絶好調だということくらいしか解らない。謎すぎる。取り敢えず宇宙を語っておけばオーライ。 |
藤水名子作品 | 『赤壁の宴』 |
『赤壁』は管理人にとっての策瑜の殿堂。ある意味旋風江シリーズよりも基本だ。そして演義系(笑)。 藤水名子が孫権と劉備陣営嫌いなのはよく解った。そして周瑜がスメルフェチ気味なのは作者の投影と思われ(だって開封死踊演舞二巻も…)。 『曹植』はペラい割にかったるい。そして文字の大きさにもびっくり(笑)。曹植がひたすら悶々としているだけの話。一昔前の文学青年のようだ。個人的にはもうちょっと天才肌で触れれば切れるような彼を見たかった。 『風狂』は藤作品ではベストだと思うんですが。短編集。曹丕書くのが上手いですわこの人。曹昂や丁夫人を描ききる手腕には脱帽。そして全体から曹操の魅力が…vv |
安西篤子「曹操と曹丕」 | 『洛陽の姉妹』所収 講談社文庫 |
短編集ですが、表題作も西晋末(?)期ですし、賈充が回想で出てたりして微妙に三国志。 曹丕は……実のところ藤作品の方がそれっぽい雰囲気なんですけど、安西氏そのものの筆力は圧巻。このしっとりとした情感は、伴野や北方には真似出来まい。 |
伴野朗作品 | 「孫策の死」(同名短編集所収) 集英社文庫 |
伴野作品は表題作に限って面白くない気がするのですが。そして三国志書く才能に…ゲフゲフん。春秋戦国書かせれば面白いんですがねぇ。 「孫策の死」は遠い昔に学校図書館で読んで以来記憶は朧気なのですが、キレイな顔して若い娘を拷問するわ腹割くわの周瑜は素敵。朝香周瑜には出来ないが藤周瑜なら平気でやりそうだ。それでこそ周郎。そして策の玉璽渡しちゃえ作戦が誰の作品でも他者の入れ知恵になってる辺り(朱治・周瑜・于吉…)、よっぽど皆に頭悪いと思われてる実状が垣間見えたり……。 「神速」の面白さの秘密はシバチュー本人と史実の面白さに還元出来る気が。ってゆーかオリジナル部分ないし。 『英傑列伝』も、趙雲・陸遜・荀・馬超という「顔で選んだんかい」と言いたくなるオイシイ面子で攻めてるのは良いのだが、正史引用&トンデモを除けば何もない……。ああでも、「唯一の反逆」には痺れましたかね(苦笑)。この一言だけで、読む価値はあったかもしれないと思いつつ。 『謀臣列伝』も似たようなテイストの短編集。トンチキに走らない分「だから何」みたいな印象が……。張良短編のみ読んで記憶を抹消・封印してたのが、本棚整理において発掘。とはいえ、魯粛短編「気前」はそれなりに良かったかも。郭嘉短編「赤痣」は唯一のオリジナル設定が、タイトル通り額に変な痣ついてるだけだったりして、それこそ「だから何なんだよ」ってかんじだ……。 『呉・三国志』は……つい買っちゃいましたが、前評判に違わぬ面白く無さ。如何にもな伴野色全開で、本筋に関係ない豆知識が端々に挿入。時折歴史の勉強したんだか不安になる北方とは、かなり対照的……なのに、リアルっぽさは伴野氏の方が薄いという……(汗)。もう5巻以降は買わない決意。某所での金返せ運動に触発されて、己を騙すことを諦めました(笑)。 他に小説以外で何冊か書いてるが(『英傑たちの三国志』とか『『三国志』のおもしろくて新しい読み方』など)、立ち読みした限りでは己の小説の宣伝文でないかアレ。流石バンヤロー。荀が曹操の心を読んだのはいいから、もっと他のことも書けっての。 |
朝香祥作品 | 『旋風は江を駆ける』上・下 |
呉という最マイナーな国を一気に乙女メジャー化させたという功績を持つ作品群(まあ以前から呉=女性のミーハーファン専用ってかんじでしたが)。流石天下のコバルトだ。出版当初はこんなん売れるのかと他人事ながら心配したが、事実最初は売れてなさ気だったが、『二竜争戦』辺りから店頭でもよく見かけるようになった。 これを入門に三国志ファンが増えることを期待した割には、旋風江より深いところまで入っていく読者が意外と少なくやや不満(無双フィーバー現在も似たような話が各所で…)。とは言いつつ結構影響を受けましたよ私も。りょもちゃんとか呂範とか愈河ちゃんとか。ってゆーかNOT演義系=正史っていう態度を改めれば旋風江ファンも良いのですがね。全部オリジナル、で結構じゃないか。 最初ら辺は考証もしっかりしてて、勉強したかんじがなかなか好感を持てたのですが、その内お子様オリジナルエピソードに終始してしまったのが勿体なかったですな。続きで孫策死ぬ所とか、いっそ対曹仁南郡争奪戦書いてくれたら評価も変わるのに……。 と思っていたら出版社を変えて再スタート?とはいえ、17歳とは…一応ちゃんと三国志しているし、青嵐以降の半分オリジナル化した辺りよりは読み応えあったけど。 旋風江シリーズがめったやたらに面白いので騙されやすいが、他の作品見てると作家としての力量は大したことない気が。少女小説界だけで見たら平均レベルかもしれませぬが。 |
江森備『天の華 地の風』 | 1巻(全9巻中) 光風社出版 |
何故か高校の図書館に……(怖)。一言で表せば孔明総受ホモ三国志。お相手は周瑜と魏延。 ホモは駄目でなくとも、周瑜受派で孔明嫌いの私は一巻読み終わった時点で力尽き涙枯れ果てて挫折したものですが。風の噂で、この作品の本領は3巻からだとか、劉備陣営内の政争にリキ入れてるとか、司馬さんちの師・昭が兄弟ホモだとか色々聞くにつれて、ちょっと再チャレンジしたくなってきました……。今はそんなに孔明嫌いじゃないですし。 読んだらまたこの項書き直します。 |
氏家琴子『三国志異聞 我、独り清めり 郭嘉物語』 | 新風舎 |
最初に言っときますが、一旦流通ルートに乗って出版された作品は一種の公共性を有していると考えているので、どこでどんな事言われても当然だというスタンスで発言します。ので、魏国同盟の同志としてではなく、以下はプロの小説を読んだ一読者の感想ということで。 ええと、一言で言えば “伴野朗が書いた『公子曹植の恋』天華風味” 。賛辞か罵倒かは各人の感性によって判断して頂きたく(苦笑)。 私は笑ったり叫んだりしたが、客観的にはしっとりした切な系ラブストーリーの筈。郭嘉を慕う家童の美少年と、曹操を尊敬する郭嘉、二人の独白めいた感情が交互に綴られるというか。そんな美少年に忍び寄る、陳群と孔融の好色な視線…(爆)。 文章は流れるように流暢、中国の文化や歴史に関する知識も深い、オリジナルストーリーと三国志エピソードに関連を持たせることにも、なんとか辛うじて成功している。 ……しかし何が問題って、折角の三国志ホモなのに絡んでくるのがオリキャラの美少年とばっかで、わざわざ三国志でこのストーリーやる意味はあるのかと。オリキャラ不要論とまではいかずとも、ここまで中心に据えすぎるのは三国迷として萎え萎え。なんとゆーか、郭嘉と脳内夫婦生活を繰り広げているらしき作者の分身がその美少年なんだろーな……という意味で伴野的(笑)。 「郭嘉物語」と銘打っているからには郭嘉ファンが主な読者層である筈。気弱善人系のいいひとオーラ撒き散らしている郭嘉でも愛せるファンにはお勧めかもしれない。寧ろあれは受キャラだ(笑)。 逆に決して読んではいけないのが陳羣ファンと孔融ファン。間違ってはいないがどことなくダサく見える「陳群」表記をされている陳羣は、人柄は悪くないが色んな人から嫌われてボロクソに言われているので、ファンが読むにはある程度の心構えが必要。 孔融は……なんかもうフォローの仕様がない……。ファンでなくても同情の涙が溢れ、真性孔融ファンが読んだら血を吐いて悶絶死しそうな勢いで、因業好色最低ジジイ扱い。 うん、作者個人の好き嫌いがはっきり出るのが女流の宿命なのかもね、孫権嫌いの藤水名子といい。しかし三国志をネタにしている時点で文芸作品であるのと同時にキャラ小説として読まれる可能性が大きいのに、キャラ小説としては致命的に読者を選ぶ、これは。寧ろ全然三国志読んだことない腐女子向けなのかも。自分観が根付いていると、「( ´,_ゝ`)プッ」とか「(; ・`д・´) なんだってー!! 」とかなる。 最後に、郭嘉の死に打ちひしがれた美少年は(ネタバレ白黒反転→)潁水に身を投げて入水自殺するんだが、そこまでされると笑うしかなかったですよ、私としては……。 |
芹沢尚実『諸葛孔明を愛した娘 夢話三国志』 | 文芸社 |
孔明・姜維・魏の間者である娘さんが織りなす愛とロマンの三国志。こう聞けば、ドリーム小説かネオロマンスゲームの台本ではないかと、つい先入観を抱いてしまうのも無理はなかった……と思う。 ゲテモノ食いの心境で入手すれば、意外にその本は太かった。んで、頁を繰ればハードカバーにも関わらず、新書のように二段組みで文字がみっしり。 この濃度で、作者の妄想が詰まったドリーム小説が、と思うと……正直、孔明とラブラブになりたい希望などこれっぽっちも持っていなかった管理人はげんなりしてしまったものだったが、ごめんなさい。本当に偏見はいけないものですね。結構面白かった。 作者の投影が入ってるのは確かだろうが、そうでない小説は滅多にあるまい。作中人物はどんな場合でも作者の分身で、それを客観視出来ない程の自己満足に突っ走ってしまった余程の場合にのみ、読者は作者の自慰を嗅ぎ取って嫌悪を感じるもので。 この小説がそれを免れてたのは、孔明への恋情→オリキャラ美女、孔明への尊敬→姜維、と視点が綺麗に二つに分かたれていて、しっかりとキャラ造型の範囲内に収まっていたから。作者が三国志歴5年で、ファンとしては比較的浅い部類なのも幸いしたのかも。 読む前は姜維と華苑(オリキャラ)にも絡みがあるのでは、と恋敵同士がラブコメる特殊シチュエーションの好きな管理人は結構どきどきしていた。が、結局両者ともひたすらにラブ孔明と言うばかりで、殆ど接触はないまま終わってしまう。 んで、その孔明の妻は三年前に先立ち、養子は既に亡く、実子は居ない……という設定になっていたので、途中からは華苑が諸葛瞻の母になるのではないかと思っていた(それにしても230年時点で息子は3歳だが…)。しかし、彼女は愛する丞相の危難を姜維に告げ、(ネタバレ白黒反転→)あっけなく失血死してしまった……。 悉く管理人の読みを外す意外性、それもこの作品の魅力であったに違いない。 前述のように諸葛瞻や諸葛攀(養子諸葛尚の遺児)の存在が無かったことにされてる、230年時点で202年生まれの姜維が19歳にされてる、史実キャラは孔明・姜維・趙雲・呉懿の4人しか出てこない、巻末参考文献に吉川三国志や秘本三国志があるのに正史はちくま版すら載ってない……などの数々の不審要素はあれども、作者自身後書きで「三国志という時代小説ではなく三国志を題材にしたおとぎ話」と言明している。 史実と乖離する部分は実在の人物・団体・事件などとは関係ないフィクションとして潔く楽しめた。結構ストーリーテリング上手いし、文章もかなり上手だったし。 エセ三国志ファンタジー小説としては結構な完成度だったのではないかと、それなりに感心する次第。 ぶっちゃけ、当初の比較対象だった氏家三国志よりは面白かったが、これは管理人の愛=こだわりが郭嘉より孔明に対して薄いのも関係しているかもしれない。多分許容範囲が格段に広いだろうから。 |
梁仁『周瑜伝』 | 今戸榮一/訳 上・下巻 光栄 |
周瑜の伝記小説……とでも位置づけられようか?なんかツッコミどころが少ない。 丸ごと周瑜が主役なのはいいんですが、周瑜マンセーのあまり、パーぺキな人間に書きすぎてちと面白くない奴だよ。もっと親しみやすい主人公希望。 この辺は個人の感性なんですが、策を「兄上」呼ばわりするのはちょっぴり違和感……。小喬とのラブ話は読んでて照れますねえ(苦笑)。 |
菊池道人『周瑜』 | PHP文庫 |
無難に歴史小説で無難にオリジナル要素もあり、全体として無難に読めた作品。程が程になってた以外は文句の付けようもなく、参考資料も必要最低限目を通してる。 毎度のことだがPHPの歴史伝記って書き手の力量はそこそこあるのに、校正が非常に粗雑で物凄く損してると思うんだよね。編集サイドの責任だ。 以下ストーリー内容。二喬との馴れ初めが可愛らしい。喬玄は策瑜の気持ちを知ってながら無視、なんか若くて頼りないなーと曹操に託そうとするも、二喬の方が能動的に憎からず思う策瑜へと身を寄せる。なんか孫策に比べて周瑜がオクテなのが可愛い(笑)。 そーゆー事情だった所為で、赤壁の原因に二喬が!?という噂に良心の呵責を感じて悩みまくる姉妹(半ノイローゼ)。 で、瑜の人生を語るには矢張り策の占めるウェイトが大きい訳だが、その書きぶりも綺麗事だけでないのが好感度高かった。 ちょっとイイ気になって慎重派の周瑜が欝陶しくなった策は上手いこと言い繕って巴丘に追いやり、勝手に許都襲撃だーと計画してたらぐっさり。自分よりも尊敬される人間の存在を許さない狭量が于吉を処刑し、それが原因で許貢の食客の怒りに油を注ぐ。そもそも周瑜を遠ざけたのと同種の驕りが自らの命を奪ったと悟り反省しながら、孫策は世を去る。 が、死に目に遇えなかった周瑜はその遺言を伝えようとする張昭に、そもそも自分が煙たがられていたと認めたくないから、事実がどうであったにせよ聞かせないで欲しいと。 「笑顔の中の両の目から、滝のような涙を零しながら、周瑜は頼み込んだ。」 孫策の謝罪からしてなかったことにする訳だが、承知していながらも現実を直視出来ずに虚像を守ろうとする弱さが非常に哀れで人間くさくて、この周瑜はかなり好き…。単なるマンセー伝記でなく、人間としての弱さや揺らぎが描かれてこそ“小説”にする意義も価値もあるよね、と。 |
風野真知雄『荀』 | PHP文庫 |
無難に歴史小説で、まあ心情もそこそこ書けているいつものPHPクオリティ。ただ荀さん単品で主役になる日が来るなんて、ねえ……本当に吃驚した。内容的には地味+曹操の伝記かよってかんじだが、荀さんの人生は曹操あってのものなので仕方ない。 今回の変な部分は、徐栄の名前が何故か徐単になってたこと、登場する荀一族の人々が総員(話の都合上仕方ないんだが)ちょっと微妙な名前のオリキャラだったこと、あと里単位で城壁のある町っぽく描写されてたのが……ちょっと、まあ、いいけど。今回は編集側というより作者当人の問題だろうなぁ。 ストーリー的には曹操と荀は両想いなんだよ、という話(大分違う)。二人の出逢いは荀17歳、曹操25歳の洛陽!(笑)PHPだからか、愛にしろ憎しみにしろ大してねっちょりとはしていない。前半生での瞠目ポイントは、田豊と荀が若い頃からの友人関係だという部分と、袁紹に仕官誘われてまんざらじゃなかった…という部分。若い頃から高い評価を受け、且つ自分でもそれを当然と思ってるような描写があって、なんて嫌な若造だと思ってたら(笑)案の定袁紹軍でのイジメを苦にして退職。口には出さないが、凄いプライドが高い……。官渡ら辺の、袁紹軍をネチネチ追い詰めていく様が旧職場への恨み節っぽくて怖かった(笑)。 曹操とはお互い尊重し合える良いカップル(かっぷる言うな)。というか、曹操が荀のプライドを傷付けないように気を遣ってあげてる感も。ただ荀主役小説だから仕方ないんだけど、本人のいない場面でも曹操てばことあるごとに荀のこと思い出して喜ぶーとか悲しむーとか考えてて、本当にこの人愛妻家だなあと思ったことです。空箱事件も愛妻家モードの新解釈だったが、個人的にはかなりカブるというか(苦笑)ある程度納得&共感する解釈だった。ネタバレだからここでは詳しく言わないけど。曹操のロマンチストぶりと荀の醒めた現実主義の対比、曹操のことを好きな割には野望っぽいものを秘めてる荀。赤壁以後感じるようになった曹操との齟齬に違和感を抱きつつも、そもそも忠誠とか愛情みたいな腹の膨れないもの目的の前ではどーでもいーよ、みたいな割り切りをしてる荀の人物像が新しくて面白い。天破といい、曹操片想い系が流行ってんの?(笑) |
田中芳樹「白日、斜めなり」 | 『長江落日賦』所収 祥伝社文庫 |
ヨシッキーの初中国体験は、小学生向け三国志ダイジェストらしい。そのクセ(だからこそ?)食傷と断言して憚らず、三国志ファンを敵に回して一歩も退かない構えにも見えなくもなかったり。そんな肩肘張らんでも、多くの三国志ファンはあんたのつまらない中国史小説も読んでるよ、と声を掛けてあげたい今日この頃。 そんなヨシッキー唯一のサービスが夏侯覇という渋いセレクト。末期も読めというイヤミか。孔明嫌いっぽく見えつつも蜀選んでる辺りなんだか半端だが、あの人の作風として魏は書きにくいでしょうなあ。案の定小説としてはあんまり面白くない。お奨めポイントは劉禅萌えv くらいか。 …って、この設定と回想だけで気付けば年月過ぎてる手法は、私のクソ駄文でも顕著ですが……。なんだ、近親憎悪か。 ついでながら『チャイナ・イリュージョン』(中央公論)所収「宛城の少女」の主人公荀灌は、荀五世の孫(って表現で合ってる?)。しかしこの、包囲網突破して敵兵薙ぎ払い知略すら見せちゃう活躍の仕方は、おじいちゃん似とは言い難いっス(汗)。寧ろ曹氏の血……? |
宇佐見浩然『中国遊侠伝』 | 全2巻 学研 歴史群像新書 |
若き日の堅パパが、許昌の乱を収める話・超かっとび風味。 なんだか、『呉・三国志』のあの辺のコテコテな書きぶりにげんなりした方。……むしろ伴野より面白いですよ。恐るべし架空戦記レーベル。 呉夫人との恋愛モードもありましたが、作者は当時の技術力の範囲内という制限の中で、如何にとんでもない必殺戦法を編み出すかに力を注いでいるようでした(笑)。その辺が架空戦記レーベルらしいところですが、それぞれのキャラが立っているのが読みやすいのですねえ。 最初は程普の田舎弁と孫堅の土佐弁(多分)に何事かと思ったのですが、慣れればそんな程普にも萌えます(笑)。ホームズ孫堅とワトソン程普っつー雰囲気ですが、自ら殺人して回ってます(そりゃそうだ)。 関西弁の許昌もなんだか可愛い奴。個人的な好みですが、許昌の愛人にしても伴野版の蒋娘々より、こっちの竇嫦娥の方が人間臭くて好きですねえ。なんと○○の孫娘だし(ネタバレにつき伏せ字)。乱の背後に党錮で潜伏中の士大夫が蠢いてたり、なかなかリアルでスケールの大きい解釈でした。黄巾の背後にも党人の陰謀が潜んでそうな伏線張ってたり。 メインキャラには朱儁もいますし、脇には盧植やら、曹操袁紹張までチラリと登場。 ……これで韓当が出てれば文句ないのですが……。そんなに影薄いのか(涙)。 |
町井登志夫『諸葛孔明対卑弥呼』 | 角川春樹事務所 ハルキノベルズ |
奴国ブラコンサド弟萌ゑ。とか言ってる場合じゃなくて。 中国系・半島系の移民による小国が群立して先住縄文人を蔑視する倭国において、先例無視し混血を繰り返し人口を増やすことで大国にのし上がる邪馬台国。民族の枠を越え、ひとつの地域に住む「倭国」というアイデンティティを新たに獲得しようとするサド卑弥呼。 利得や忠義ですら動かない、漢民族が全てに優位する中国社会の傲慢を厭って大陸の分裂→異民族割拠の五胡十六国時代を呼び寄せんとする、落雷まで操っちゃうサド孔明。いちいち冠詞に「サド」を付けねば気が済まぬのか私。そんなぶっ飛んだサド共に振り回される、生命線の短そうな薄倖の難升米が主役となるのだろうか(漢民族系の奴国王と縄文女性のハーフ)。 難升米を気に入り数々の虐待を加えた挙句に魏国まで引っ張っていった卑弥呼は、街亭でふん捕まえた馬謖を見て「このコ好みのタイプだから孔明も気に入ってるに違いない」とばかりに空城の孔明の元へ連行。おそるべしサドの共感力……。奴国ブラコン弟と難升米の所有権を奪い合う女王様だが、どっちも北風で太陽不在。奪われる側の精神的ダメージが蓄積されるばかりで暫く決着は付きそうにない。 三国志モノとしての作りははっきり言って甘いが、娯楽小説としての完成度は結構高いんじゃないだろーか。魯粛と徐庶が倭国で死んでても許せる人向き(笑)。昭とか馬謖のポジションはかなりオイシイ。あと司馬懿の出番もかなり多かったり。 ぶっちゃけ架空戦記の類なので、まあ小説としての主眼はどれだけトンでもない科学戦法繰り出せるかという部分にある訳だが。敢えて歴史小説として語るなら、この作者が志向しているのは古代東アジアの国際性と、アンデンティティの問題。新羅・百済系官僚が幅を利かす飛鳥時代に、高句麗系の小野妹子が隋の侵略軍から母の祖国を守ろうとする『爆撃聖徳太子』を見ても、一貫したテーマなのだと思わせる。 ……何というか、幾らシリアスに纏めようとも、エレキギターはやりすぎだよね。しかも人力発電かよ!!(笑) |
吉本健二『天破三国志』 | 1〜2巻 学研 歴史群像新書 |
孫策死なない架空戦記。紛うことなく架空戦記です、内容的にも。 とはいっても孫策が一方的にぶいぶいと快進撃を繰り広げる訳でなく、曹操側や劉備サイドのキャラも行動、戦略が練られてて、しかも性格もキャラ立ちしてるし(笑)娯楽小説としてかなり読み応えがあります。お互い死力を尽くしてて、パラレルワールドながら予断を許さない話運び(いや架空だからこそ展開不明なんだが)。1巻では孫策VS曹操の戦いがメイン。2巻からは劉備軍団が本格始動、荊州を巡る攻防、そして袁紹vs孫策軍団の大決戦!孫家・袁家・曹操・劉備の各軍団が今日は手を組み明日は矛を交じえ、丁々発止の駆け引きを繰り返す。 キャラ小説的には、孫策と周瑜が異常に仲良しでしかも対等な関係だよなーとか(しかも爽やか風味)、曹操って荀のこと大好きだよなーとか(しかし片想いクサイ・笑)、それに比べて劉備と孔明の仲の悪さは異常、とか(笑)。そして袁家がひたすら可哀想……。 |
今戸榮一『超・三国志』シリーズ | 『超・三国志 桃園結義』 『超・三国志 赤壁秘話』 魏臣編・呉臣編 光栄 歴史外伝シリーズ |
実は上記の周瑜伝も、同シリーズの一環だったりする訳ですが。 なんだか胡散臭さ極まりない内容の、三国志民間伝承集。似たような説話集では岩崎芸術社の『三国志 中国伝説のなかの英傑』も存在するが、分量的にこっちの方が多い。絶版で入手困難なのがつくづく惜しまれる。 『桃園結義』は蜀編。演義に取り込まれたプロトタイプなのか、演義の影響下に生まれた伝承群なのか。後者っぽいけど(笑)。 歴史事実からは大きく逸脱してますが、民衆に愛される彼らの姿が見えてきて、ほのぼのと笑えるかもしれない。コオロギ対決とか、興味ないフリでしっかりMyコオロギ所有してる孔明さんが(笑)。 で、蜀は一冊丸々説話だったが、魏と呉は演義界で敵なのが災いして、大した数が集まらなかったのか。魏呉編各々の半分は、講談の赤壁を何種類かシャッフルして再構成した小説仕立て。だからサブタイが『赤壁』。ってゆーか説話と講談で別々に本出せばいいのに……。 講談の方は演義以上に孔明活躍しまくりで周瑜ダメダメ化。悔しい。水戦の指揮までしてやがるよ孔明。 説話は具体的な地名が散見して、その辺りも面白い(地名の由来伝承なのだろう…)。裏魏界では有名な荀足にケガ事件。初対面の男に足触らせるやら泣き落としするやら、明らかにアレは色仕掛け捜査です(笑)。断言。 |
桐野作人『ハイパー三国志 周瑜奔れ』 | 勁文社文庫 |
(※ネタバレ箇所は白黒反転) 何年もの間気にしていた幻の絶版本。目の前のチャンスを逃せず、ついふらふらと入手……。 そう、世にごまんとあるIF小説。違いと言えば周瑜主役。 210年に死なない周瑜。統の補佐下で馬超と協力し、怒濤の快進撃で荊州・益州ゲットだぜ!! こんな都合の良い展開があるものかと思いつつ、劉備陣営が蜀奪えてる訳だし、可能ではあるのか。逆を言えば小説の展開として史実のパクリ改変。 読む前はIFモノにありがちな天下統一で終わるのかと思いきや、許昌を奪われた曹操は冀州に閉塞、しかし馬超はその勢力拡大を望まない韓遂によって暗殺……。 書かれてない今後として、下手をすれば東西からの挟撃で益・荊州との連絡を分断され、そのまま自滅という展開もありえるかも。特に孫権から切り捨てられた場合。 劉備との共闘策を潰された魯粛は怨んでないのかとか、周瑜の権力強化を孫権はどう思っているのかとか、描かれてない箇所が多過ぎて、逆に色々想像可能。 桐野は劉備が天下統一なIF小説も書いてるが、周瑜モノも2冊書いてるし、かなりファンなのでしょうな。プロ作家で唯一周瑜暗殺説を展開しているのもこの人だし(笑)。別冊歴史読本『三国志「軍師」総登場』でのコラムにて。立ち読みした『目からウロコの三国志』でも、断言せずとも匂わせていたような。 ……ってゆーかコレ読んで、初めて馬超×周瑜もアリなのかと思ったのが、一番の目から鱗かも(苦笑)。 |
伏見健二『奇書三国志』 | 全3巻 サンマークノベルズ |
劉備が実は女だった!?…モノにしては1巻で本物の男性劉備が出ずっぱりなので、入れ替わったその後を読んでもオリキャラ大活躍っぽい印象を与えるのが勿体ない歴史伝奇小説。基本的に曹操×女劉備の愛憎が一大テーマと思われるが、三角関係の一辺に据えた呂布の扱いに致命的に失敗。呂布もだけど、左慈とか于吉とかの人外キャラの設定を活かしきれなかった気配がする。女劉備の老化が遅かったり何年も妊娠してたりする位にしか伝奇設定が活きてない…。 1巻は黄巾の乱、2巻は反董卓連合、3巻は劉備が許都に滞在してる辺りが中心なのだが、それ以外の大半の展開を地の文で説明してるのが欠点と言えば欠点か。2巻で呂布に一目惚れさせたなら、徐州時代くらいちゃんと書いてやれよ!みたいな。まあ書くシーンを取捨選択したからこそ、まがりなりにも物語として完結させられたのかもしれないけど。普通は全3巻で三国志は終わらんよなあ。 まあまあ筆力はあるし、地の説明とか見ても致命的間違いは蔡と蔡倫をごっちゃにした点だけだし、トンデモ本という前提で評価すればそれなり高得点の小説と言えようか。曹操×女劉備の濡れ場が意外に淡泊だったのが個人的にはがっかり(笑)。 挿し絵は破滅的に最悪だった……。 |
田村登正『大唐風雲記』3巻 | 1・2巻は三国志とは関係ないし。 角川書店 電撃文庫 |
タイムトラベル本拠地は盛唐。安禄山の乱から長安市民を守る為、少年少女に武則天の幽霊が助っ人求めて過去へGO!みたいな、筋だけ聞いたらどんな駄作かと心配になりそうなシリーズ。しかし意外と面白いのです、うん。……そりゃあ傑作とは言い難いですが、このレベルあったらライトノベル中国史系の興隆の為にも褒めといて損はない、みたいな言説をかつくらでも見た(苦笑)。 3巻は案の定孔明を助っ人に呼ぼうと後漢末へゴゥ。何故か、妙にホモ臭い孔明と趙雲がコンビ組んで、196年の長安付近に出現。待てやオイ!と叫んだ瞬間(死)。彼らの正体は一応伏せられてましたが、そんなん一発で解るわい。 チョイ役の曹操様は格好いいvv と現実逃避してみたり……。 |
無双ファンFanFieldノベルズ |
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無双攻略本に似た装丁、ファン狙いの小説アンソロジーなのに何故か塚本青史やら狩野あざみが。プロ作家をンなもんに巻き込むなー!とか言いながら陥落。事前予想より玉石混淆という程でもなく、全般的にそこそこ読める出来。文才を補うのは歴史知識だと痛感する。ビバ歴オタ。地理関係に強い人が多い印象も(これも描写力だろうか)。「三国志アクションファンタジー」なるアオリに違わず、良くも悪くもファンタジーだった…(特に青史)。 ●『龍よ、蒼天に舞え』の各小説。 ・沖田峯子「泡沫の旅立ち」/若き日の関羽、民間伝承系。関羽と恋に落ちる悲劇のヒロインの名が王菲……フェイウォン!?Σ(゚д゚lll) ・狩野あざみ「天下を治める者は」/陳宮、陳宮、陳宮!!(大興奮) あの自覚的ホモ作家狩野あざみの陳宮が読める日が来るとは…!下包囲から白門楼。 畢とか高順とかの脇役が印象的。そして厳夫人は何故あんなに陳宮を目の敵に(笑)。荀さんがとても荀してて(は?)そこだけで満腹。二人の対面はどっかで見たことあるシーンだと思ったら自分のだった(死)。 ・阿部敦子「阿蒙異聞」/頭悪い犬系武将りょもちゃんが、学問をしたお陰で憧れの周瑜様に笑いかけて貰えるようになる話。嘘。萌えポインツはクスクスと笑う孫権。嘘。何故かこの話に限り登場人物が脳内で無双ビジュアル。 ・秋月達郎「関三小姐―関銀屏伝―」/各種雲南民間伝承のリミックスといった趣。ヒロインの関羽の娘が全然共感出来ない女だと思ってたら最後には改心した。廖化がじいやポジション。妹の影に隠れがちな関索も見せ場アリ。石林の阿詩瑪まで出てくるとは思わなかった…(近所の中華屋が阿詩瑪石、ってどうでもいいか)。あの引きでは阿詩瑪って関興の側室になったみたいな匂わせ方だった(笑)。 ・武林遙「出立の朝」/北伐の準備中の孔明、出師の表を書いただけで概ね平凡な一日の風景。戦争は民が苦しむから嫌だなと躊躇う劉禅や、攻めるなら長安電撃作戦!と鼻息荒い魏延に、政権維持目的で負けない程度に戦おうとする自分の意図を説明出来ないから…と情に訴え説得しようとする孔明。いや、ちゃんと説明してやれよ。 ・森下翠「麒麟は蒼天の月を踏む」/妙に乙女ちっくモードな気がした(錯覚?)姜維が孔明に膝を屈するまで物語。馬岱×姜維という新たなカップリングが眼前に(オイオイ)。孔明と姜維の会話って、何故どの作家の読んでも「このバカップルがええかげんにせーよ」と思うのだろうか。 ・塚本青史「娃」/機種依存字を題名にしないで欲しい…面倒だから(ここで言ってもなぁ)。若き日の堅パパが許昌を退治する話なら、中国遊侠伝の方が面白かった。かっとび度はどっこいどっこい。呉夫人と呉国太が双子で、呉景がその下の弟なのは萌えた(笑)。 ●『獅子』と『麒麟』は一々感想書くのが面倒臭いのでパス(おいおい)。 個人的には、『獅子』では「張小燕伝」、『麒麟』では「胡蝶桃源記」が面白かったかな。特に胡蝶はシリーズ全体の中でも特に気に入った話です。二喬が主役の女の子大活躍小説。女性キャラメインで尚かつ湿っぽくないというのは、歴史物では非常に貴重な要素。 |
他、風の噂とか本になってないのとか、そんなの。 |
周大荒『反三国志』。今戸榮一訳の光栄版と渡辺精一訳の講談社版が存在するが、後者の方が評判良さ気。私も後者を一度手に取ってみましたが、……人物紹介読み終わった時点で挫折(死)。なんか膨大な数の全登場人物の死に様が一々書いてあって、それだけでお腹一杯に……。 周瑜の○○死に憤る以前に、魏将の大量爆死と呉将の大量入水死をなんとかしてくれと言いたくなる。一応作者は蜀の北伐と共産党の北進をオーバーラップさせたかったらしいが。 蜀が天下統一するのに劉禅は……と、蜀ファンの恐ろしさを噛み締めたあの夏の日の午後(謎)。 そういえば『三国幻獣演義』なんてのもあった。立ち読み。例の桃園面子が幻獣飼うてるという同人くさい設定。なんか色々オリジナルな割に、えらい話が進まないまま全4巻で終わってた……。荀がそれなり格好良く登場してましたが(しかし最終巻)、地の文にだけ出る「甥」の荀攸が本気で幼児だったりして、オイオイ(苦笑)。 あと未確認情報として柴錬三国志の曹操が超美少年だと聞いたことがありますね!なんだそれあはははは!!(失礼)で、柴錬は李儒も格好良いらしいですが。しかしたまたま立ち読みした呂布の最期があんまりだったので、改めて手に取る気が起きにくい……。 そしてSF三国志もね……呂一号って何だよ。 他にはIf系も多々出版されてますが、孔明が天下取ったり太平洋戦争に出現したり、こーゆーのは読む気しませんなあ。というより各々の区別がついてない。「敗戦の計」とかタイトルには笑かされますが。 |