※引き続き御本家未登場の捏造国家が登場します。ご注意。
――納得いかねぇ。
プロイセンは心中ひとりごちた。三日前の自分は見事な演技力と交渉術を駆使し、見事敵地への潜入を果たした筈である。さすが俺!とか言っている場合ではない。
「おや、美味しそうですね」
「はい、最近出来た店なんですけど是非オーストリアさんをお連れしたくて」
新市街(らしい)の一角にあるカフェ――こちらではカヴァナというらしいが、丸いテーブルに男三人膝突き合わせている現状は、まあ良い。ショーウィンドウを眺めて小娘のようにはしゃいでいるのも別に構わない。しかし。
「ここはパラチンケが特に美味しいんですよ」
「じゃあそれにしましょうか。折角のお奨めですものね」
……さっきから俺様蚊帳の外じゃね?
プロイセンの恋人は今でこそ地味な暮らしをしているが、曾ては花から花へと飛び回る蝶のようにふわふわと生きてきた過去を持つ。目を離した隙に何があるか分かったものではないが、もしイケメン野郎が邪念を抱いていようとも、歴とした彼氏が隣で見張っている限りはそうそう口説く勇気も出せないだろう。……そんなプロイセンの目論見は、どうやら随分と楽観的なものだったらしい。
ザグレブに来たのは初めてだったが、一国の首都というにはこじんまりした印象の、悔しいが落ち着く雰囲気の街である。規模は小さいが活気がない訳ではなく、再開発の工事の音が方々から低い唸りを立てているのが、今は弟の手に委ねているプロイセンの故地の現状を連想させる。未来がある国なのだ。
パラチンケだギバニツァだと菓子を語り合うクロアチアの表情は明るく、彼のことをよく知らないプロイセンが一見して解る程に浮かれている。……こーんな時代遅れの坊っちゃんに構って何が楽しいんだか。
「パラチンケンなら、先週お前が作ったの食ったばっかだろ」
「――――」
プロイセンが嘴を挟めば、ピリッとした緊張感が二人の背中に走った。
ざまあみろ。クソ坊っちゃんも慣れない気ぃとか遣ってんじゃねーよ。
プロイセンは溜飲を下げたが、敵の防御力もなかなか侮れない。
「オーストリアさんのお菓子、俺も食べたいなぁ」
「ふふ、美味しいものを作って差し上げる為にも、今日はこちらで研究しましょうか」
何事もなかったかのように会話が再開される。二人ともプロイセンの声が聞こえていない筈がない。にも関わらず、三日前からやたらと同じような一幕が繰り返されていた。
最初に話した時の感触からツラに似合わず内気で大人しい男なのかと思っていたのだが、どうやら言葉少ないのではなく、わざとプロイセンの存在を無視しているようなのである。オーストリア相手にはふつーに喋っているし、間違いない。
クロアチアが席を外した隙を見てオーストリアに訴えれば「人見知りしているのでしょう」と軽く返されたが、そんな筈がない。というか坊っちゃんも一緒になって俺をシカトしてるっぽいのは気の所為だよな。そうだよな?
苛立ちを込めたプロイセンの舌打ちも完全に黙殺された。普段のオーストリアなら「お下品ですよ!」と目を三角にして注意してくるだろうに。
気に食わない。何もかも気に食わない。
ドイツ語が割と通じるのも気に食わないし、建物の雰囲気が何となくウィーン風なのも気に食わない。プロイセン一人はシュバルツァーを飲んでいるのに、いや自分で注文したのだが、目の前の二つのカップに生クリームがこんもりと山盛りになっていることも気に食わない。テメエもかイケメン野郎。こんなゲロ甘いモン何十年と飲み続けてるクセに、何故こいつらは糖尿病にならないんだ。
なんというアウェイ感。プロイセンのフラストレーションは溜まっていく一方である。畜生ひとり楽しすぎるぜ。
三つ巴INザグレブ。