キンブリーは仕事の出来栄えを見物するべく、病院の前に陣取っていた。
玄関前は避難する人々、ベッドごと運び出される重症患者、慌ただしく走り回る医療関係者で祭りのような騒ぎになっている。
昨夜、本来の目的のついでに趣味で仕掛けておいた爆弾が、こうまで大勢の恐怖を煽っている。その様を目にして、キンブリーは堪らなく愉悦を覚えていた。爆薬自体はリモコン操作で遠距離から発動する仕掛けだったが、こうしてわざわざ現場まで足を運ぶのは本来必要ないキンブリーの趣味である。
後はこれで忌々しいマスタングが赤い花火になって吹き飛べば、アーチャーも昨夜の失態を水に流して喜んでくれるだろう。
雇い主の、氷のように怜悧な表情がほころぶ様を想像して、キンブリーは嬉々としてタイマーのスイッチを押した。
「逃げ遅れた人は!?ブロッシュ先生!!」
「医師・看護師数名、所在が確認出来ていないのは8階のマスタングさんと視察にいらしていた理事長です!!」
若い医師同士の会話が耳に飛び込んできたのは、タイマーの作動を確認した後だった。
「……なんだって!?」
「え?あ、ちょっと、あなた!!」
気付いたブロッシュが慌てて引き留めようとしたのを振り払い。
「どいてて下さい!!」
キンブリーは己が仕掛けた数個の爆弾を解除すべく、外とは裏腹に静まり返る病院の中へと、単身飛び込んでいった。
 
 
 
「…っと。これで7つだ。あとひとつ…」
爆薬に繋がるコードを切断し、デジタル表示のカウントが止まったことを確認してキンブリーは額の汗を拭った。
しかしここで悠長にしている隙はない。残された時間はあと僅か。
解除出来ていない爆弾はあと一つ。
仕掛けた場所に思い至り、顔から血の気がひいた。
間に合わなければ忌々しいマスタング共々彼までもが塵と消える。
それだけは阻止しなければ…。
キンブリーは静まりかえった廊下を駆けた。目指す先は理事長室―。
 
 
 
「何も知らない一般人を巻き込んで…どうかしてるぞアーチャーっ!!」
ロイはアーチャーに掴みかかり激昂する。
しかしそれに動じる風でもなくアーチャーは返した。
「大事に多少の犠牲はつきものだよマスタング。何時の時代もそうだろう?」
「……駒も使い捨てだと?ふざけるな…他人の運命を左右する権利などない!お前にもお前の上にいる者にもだ!」
吐き捨てるとロイは部屋を出ようとドアに手をかけた。
「何処にいくつもりだ?」
「決まっているだろう。爆発を止める術がないのなら爆弾を破壊するまで」
「ふっ無駄なことだよ。何処にいくつ仕掛けてあるかも解らないのに。既にカウントダウンは始まっている。もう間に合わないだろう」
ゲームオーバーだと彼はわらった。狂ったように。
ロイはそれに取り合わず出ていこうとして阻まれた。
「行かせはしないよ。何故私が全てを解った上でここにいると思う?」
「知るわけがないだろう。知りたくもないがな」
ロイの腕を掴んで離さないアーチャーに、ロイは冷たく返す。それを聞かない振りでアーチャーは更に言い募った。
「5年前のあの日…私は全てを失った。富も名声も何もかも…愛した相手までも…お前を怨んだよ」
ロイの腕を掴む手に力が籠る。
「ここで共に果てればお前は永遠に私のもの…」
彼の瞳に映るのは憎いまでに愛しい相手ただ一人。
そしてその瞳の奥に潜むのは―狂気。
爆発の時はすぐそこまで迫っていた…。
 
 
 
 
 
〈続〉
 
← 鋼いんでっくすに戻る →

※梓コメント
アチャロイ優勢に。このまま逃げ切るか!?