どぉおぉぉぉん…
鼓膜を破る勢いの爆音と共に壁が崩れ落ちた。
ロイはエドワードを抱え込むと、爆風を避けるため、咄嗟に重厚な執務机の陰に身を寄せる。
これがアーチャーの言っていた爆弾であることは自明の理。
しかしご丁寧に理事長室の側に取り付けるとは…アーチャーすらも使い捨ての駒だというのは真実だったようだ。
邪魔者を排除するには大きすぎるリスク。
それすら厭わない彼の背後に潜む者の存在―。
ロイが思っていた以上に事は深刻で…。
「おい。おいってば!!」
不機嫌そうな声と共に頭突きを食らう。
我に返れば腕の中の少年が離せともがいていた。
「この緊急時に意識飛ばしてんじゃねーよ。この無能っ!」
恩人に向かってその言い草はないだろう。
心密かに傷付きつつ、ロイはエドワードに手を貸し立ち上がった。
そこに展がる光景はまさに惨状と呼ぶにふさわしいもので、ロイは思わず息を呑んだ。
散乱する調度品、崩壊した壁、天井が崩れてくるのも時間の問題だろう。
見上げた天井には無数の亀裂が入り、細かな破片がパラパラと降ってくる。
「早くここを出なければ」
ロイはエドワードを背負っていくつもりで、彼の前に屈みこんだ。
しかし―。
「無駄だよ。マスタング」
ゆらりと立ち上がり力無く言ったのはアーチャー。
先程の爆発で負傷したのか、額からは血が流れ落ちている。
白い顔に映える鮮血の色は禍々しささえもかもしだす。
「この部屋は特殊な構造になっていてね。出入り口は一つ。窓は採光用の天窓だけだ。そして…」
彼の眼の先には…崩れた壁。
「唯一の出入り口は瓦礫の向こうだ。この状況では使えまい」
アーチャーの呟きには諦めがにじむ。が。
「無駄かどうかはわかんないぜ?」
そんなアーチャーに不適な笑みを向けたのはエドワード。
「じゃーん。これなーんだ」
そう言って差し出したのは、ずっと大事そうに抱えていたコップである。
飲み物を入れるにしては若干大きめで、密閉されている。
中には無色透明な液体が入っていて、見ただけでは何かは判断出来ない。
「さっきの衝撃で誘爆するかと思ってヒヤヒヤしたぜ」
エドワードのぼやきに、ロイははっとなった。ということはつまり…
「ニトロか!?」
ニトログリセリン―正式名を三硝酸グリセリンと言い、無色油状の液体で強力な爆発物である。主にダイナマイトの原料として有名だが、血管拡張作用があるので、狭心症の特効薬でもある。
衝撃を与えると爆発するため、運搬技術の発達していなかった頃には爆発事故が耐えなかったという―これなら突破口が開ける。
「流石にカンが良いね教授」
ロイの答えにエドワードは満足気だ。
「見取図がないからオレの記憶だけが頼りなんだけど、この部屋は病院の一番端。この壁さえ壊せば外に出られるハズだ」
エドワードは辛うじて無傷な壁を叩いた。
「出口がなければ作るまでってな」