9階の南側。
一番陽当たりの良い個室が彼の病室だった。
長期入院との情報を裏付けるように、部屋のそこかしこに本が積み上げられている。
そのどれもが様々な分野の研究書で、雑誌の類は見当たらない。
「入院してる時くらいは頭を休めたらどうだ?」
見覚えのある表紙を手に取りパラパラと捲りながらロイは言う。
エドワードはその様を眺めながら、自分も一冊手に取ると表紙を開いた。
「別に過労で入院って訳じゃないし。読んでるほうが落ち着くしさ。あんたも同類だろ?」
ニヤリと笑うと、いつの間にか真剣に文字を追っていたロイをからう。
久しぶりに見た研究書に思わず没頭しかけた彼は、エドワードの台詞に慌てて本から眼をひきはがした。
「くくっ…図星ってカンジ?」
ロイの反応がおかしくてついつい笑ってしまう。
と、病室のドアが前置きもなく開いた。
戸口に立っていたのはエドワードと大して年の変わらぬ少年で、ほっとした様な表情をすると小言を並べたてる。
「もーっ!!兄さんったらまた一人でウロチョロするんだから!!危ないから駄目だって言ったろ?」
どうやら話からするとエドワードの弟らしい。
小言は更に続きそうな雰囲気だったがエドワードが遮ってしまう。
「あぁアル!紹介するよ。こちらロイ・マスタング教授。で、これがオレの弟のアルフォンスだ」
「貴方があのマスタング教授ですか!こんな所でお会いするなんて奇遇ですね」
アルと呼ばれた少年はニコリと笑ってロイに握手を求める。
「とうの昔に退職したから今は教授ではないんだが…こちらも会えて嬉しいよ」
ロイは握手に応じると苦笑いでそう付け足した。
「貴方の著書は何冊か読ませていただきました。それに…ヒューズ先生からも色々お話をお聞きしてます」
ヒューズの奴…一体どんな話をしたんだ。
アルフォンスの微妙な間に、ロイは嫌な予感がする。
追い討ちをかけるようにアルフォンスの口からは嬉しくない情報が。
「あ、そういえばヒューズ先生が探してましたよ。貴方のこと」
更に嫌な予感。
病室を抜け出したのがバレたのか…。
「大人しく部屋に戻った方がいんじゃねぇ?」
この間の騒動を知っているエドワードにも言われ、ロイは仕方がないと病室を辞した。
「お、戻ってきたな」
ロイが自分の病室に戻れば、ヒューズがベッドに腰掛け待ち構えていた。
逃げ出したかと思ったぞ。とからかわれ眉間に皺が寄る。
「当たり前だ。この間のような真似は二度とごめんだからな」
「そうかぁ?俺は楽しかったけどなぁ。お前の…」
「やかましいっ!!で、用は何だヒューズ!!」
放っておけば何を言い出すか解らない。さっさと本題に入らせようとロイは口を挟んだ。
「そうそう。俺明日から三日間学会があってな。病院を空けるんだよ」
ふむふむヒューズがいないのは都合が良い。
「見張りの代役は頼んであるからな。逃げるなよ」
ロイの考えなどお見通しとでもいうかのような用意周到さにぐうの音も出ない。
言葉に詰まったロイの頭を軽く叩き、大人しくしてろよ。と言い残すとヒューズは病室を出ていった。
※梓コメント
このページは珍しく一人の手によるものです。どちらなのかは内緒(笑)。
それにしても、お互い史上かつてないスピードなのですが…(・ω・ )?困ればバトンタッチ出来るので、気が楽という事情もありそうです。