……後刻の会話。
「アイツの安否は?」
「彼のおかげで。空き病室のベッド下で昏倒、いえ保護されているのを確認しました」
「そうかそうか、なら安心だな」
「ヒューズ先生のお怪我は……」
「大丈夫ー、軽い火傷で済んだから!」
「はぁ、……APですか」
「そんなかんじだなぁ。過酸化アセトンはネットを見た中学生でも家庭の材料で作れる……逆に特定が難しいな」
「恐らくそれが狙いかと」
「患者のフリは多分偽装だろうが、念の為明日内科の病棟を見てきてくれ。右頬を浅く切ってる」
「了解しました」
冷静なホークアイに対し、がしがしとヒューズは頭を掻き毟って苛立ちを顕わにした。
「あー…、置いてくのが心配になってきた」
「……兄さん」
「何だよ」
ヒューズ達が深刻な話をしていたその頃、エルリック兄弟の病室でも深刻な表情で会話がなされていた。
「いくら緊急措置だからってこれはやりすぎだろ?」
「仕方ないだろ…咄嗟のことで手加減忘れちまったんだよ」
「これじゃ兄さんが悪役じゃないか…」
アルフォンスが嘆くのも無理はない。新たに入れたベッドの上、横たわるロイの目が未だに覚めないのだから。
悪漢に追われ逃げるロイを空いた病室に連れ込み、更にその腹部に痛烈な一撃を叩きこんだのはエドワードその人だったのだ。
あの後、意識の戻らない彼をそのままにしておくわけにもいかず、ホークアイからの依頼(というか半ば強制)もあってこの病室に匿っている。
「っだーっ!!済んだことでウダウダ言っても仕様がねーだろ」
「またそーいう…」
潔いのか何なのか、吠えるエドワードに呆れた声を返すアルフォンスの耳が微かな呻き声を捉えた。
「大丈夫ですか?」
ゆっくりと瞼を上げるロイに声をかけると、擦れた声が返る。
「ここは…」
「9階の個室です。あのまま教授の病室に戻るのも危険だと思ったので」
「そうか…迷惑をかけたな」
そういいながらロイは上体を起こす。
そのまま上掛けを捲り立ち上がろうとするのをアルフォンスは慌てて制止する。
「まだ寝てたほうがいいですよ」
「いや、いつまでもここに居る訳にはいかない」
「でも…」
と、今まで大人しくしていたエドワードが口を開く。
「アンタにはここにいてもらう。でないとオレたちがどやされるからな」
「どういうことだ?」
「ホークアイさんに頼まれたんです」
「アンタの部屋は奴らにバレてる。他の部屋に変えたところで同じだろ。それに一人にしとくと逃げ出さないともかぎらないしな」
要はお目附役だな。とエドワードは人の悪い笑みを浮かべて言いつのる。
ホークアイが絡んでいるとなるとヒューズの差し金だろう。しかしホークアイに逆らうのはヒューズに逆らう以上に後が怖い。
今は大人しくしているしかないとロイは諦めの溜め息をついた。
コンコンッ
扉が二度ノックされ、応えも待たずに引き開けられる。
薄暗い室内に足音が響き、大きな執務机の前で止まった。
机の後ろに位置する窓を向いていた重厚な椅子がゆっくりとこちらに向く。
座っていた男は、机の前に立つ相手の顔を見上げると冷ややかな一瞥を投げた。
「お前も失敗かキンブリー」
怒るでもなく落胆するでもないその声音に、キンブリーの背には冷たいものが流れる。重い沈黙が支配する中で両者視線は逸らせない。
先に口を開いたのは男だった。
「先ずは報告を聞こうか」
キンブリーの報告に男の表情が険しくなる。
「マース・ヒューズか…厄介だな」
優秀な医師ではあるが自分とは正反対を向いている相手――。
自分にとっては目の上のコブである。その男とマスタングが顔見知りとは。
予想外の展開ではあったが邪魔者を一掃する好機ではないか。
彼の能面の如き白皙には酷薄な笑みが浮かぶ。
「もう一度チャンスをやろう。次はしくじるなよ」
その言葉にキンブリーもニヤリと笑む。
「了解しましたミスター・アーチャー」
不穏な影が新たに動きだそうとしていた――
※梓コメント
アーチャーキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
半ば手前ミソな喜び。しっかり乗ってくれる兄さんは善い人です。
ところでネットで簡単に爆弾の作成方法が参照出来ると世間やニュースは(((( ;゚д゚)))怯えてますが、普通に検索かけても大してよく解りませんでした。
私の探し方が悪いのかのう。
物理IBを修めている馨兄さんと違って、特に梓は根っからの文系(非理系)ですが、金鰤が使用したのは手間なし●ライトでなくオキ●ドールに違いないと言ってみる試験。