――僕達は、約束をしたんだ。
CHAPTER4〜韜晦・真実〜
「――望ちゃんがマジ恋愛してるって、ホント?」
「ウソだ」
答えは、気負いなく返された。
その途端、張りつめた空気は元の暖かさを取り戻す。
「なーんだ、やっぱり。道理でおかしいと思ってたんだよねー」
気の抜けた様子で、普賢はずるずると太公望に凭れ掛かる。甘えるようにして、肩に顎を乗せてくすくすと笑う普賢を、やや呆れた表情を見せつつも太公望はそのままにしておく。
「おおかた太乙辺りの与太話ではないか?おぬしが騙されるとはのう」
「うん……帰ったらお礼しないとね」
柔らかな笑顔のまま物騒な台詞を吐く友人の背中を、やや冷や汗をかきつつ太公望はぽんぽんと宥めるように叩いた。
ふと思い付いたように、普賢は顔を上げた。
がばりと、突如上体を起こす。
寝台の、太公望の傍らに座り直すと、太公望の肩に腕を回し体を引き寄せた。今度は太公望の方が普賢に凭れ掛かるような姿勢である。
「どうしたのだ?」
「ねぇ望ちゃん……」
耳元で囁く声は、睦言のように甘い響きを伴って。
「約束を……忘れてないよね?」
儚げな笑み。それを笑い飛ばそうとする太公望の笑みは、ほろ苦さを含んで同じく力無いものになった。
「……勿論。わしが忘れる訳ないではないか」
「そうだよねぇ」
じっと身を寄せ合う姿には、何故か寂しさが漂う。親を亡くした雛鳥達が身を寄せ合うかのような。
「望ちゃん……誰が居なくなっても、僕だけは傍に居るから……」
「うむ……そうだのう……」
幼馴染みの肩に凭れながら、太公望は目を閉じた。
が。
「すみません師叔っっ!!予想外に時間が掛かってしまって……っ!?」
天幕の入り口を勢い良く開けて駆け込んできた乱入者の存在に、太公望はかっと目を見開いた。
硬い動きで、ぎぎぎ……、と首を回す。
「………え………?」
乱入者も、一歩を踏み出した体勢のまま固まっている。
そりゃそうだろう。恋人が他人にしなだれかかってる(ような)姿を突然見させられては。
ちらりと後ろに視線を這わせると、滅多に動じることのない普賢までもが目を丸くしていた。
気まずさ極まりない空気が流れる。
「あの……師叔……」
「よ、楊ゼン…………」
引き攣った表情で乱入者たる楊ゼンが呼び掛ければ、同じく引き攣った顔で太公望が絞り出すような声を返す。
浮気現場発見!たる雰囲気の、惨憺たるその場の空気からいち早く立ち直ったのは、やはりというか普賢であった。
「望ちゃん?」
労るような、優し気に掛けられた声に反応し、太公望はびくっと凭れ掛かっていた体を離す。
「ふっ、普賢、いや楊ゼン。あ、これはな……」
ずりずりと寝台に座ったまま体を移動させつつも、狼狽の余り要領の得ない太公望。それをちらりと眺めると、普賢は立ち上がった。
そのまま、未だに硬直したままの楊ゼンの元へと向かう。
「噂では聞いたことがあるよ……。天才道士の楊ゼン?玉鼎のトコの」
つん、と指先でつつくと解凍されたかのように楊ゼンは我に返った。
「な、なんなんだ、キミは……」
途端敵意の籠もった眼差しで射抜こうとしてくる天才道士に、普賢はにっこりと笑いかけた。
「キミ呼ばわりしないでくれる?」
「ふ、普賢……」
不穏な空気に居たたまれなくなった太公望が立ち上がる。それを振り返らないまま、普賢は笑顔のままで確かめた。
「望ちゃん……………彼が?」
「……………」
口をぱくぱくさせる太公望を気配だけで察したのか、普賢はそれ以上追求しない。相変わらず笑顔を貼り付かせたまま、出口に向かって足を踏み出した。
「ちょっと、あなた……」
訳の解らないまま普賢を呼び止めようとした楊ゼンは、
ばしゃっ
何故か、頭から水を被ることとなる。
「は………」
見れば、いつの間にか普賢の手には円形の宝貝が光を放っている。
その宝貝と、「普賢」という名から、遅まきながら楊ゼンが相手の正体を察した頃には。
「水も滴るイイ男〜〜♪」
普賢は、呆然とする楊ゼンと途方に暮れた太公望を残して天幕を去っていたのだった。
はい、日を置かず続きです(^^)
今までのペースで行くと、完結が何時になるか解ったもんじゃないので。危機意識を高めた結果です( ̄ー ̄;
目標は5月半ばまでの完結、ですかねぇ。
ようやっと王子が登場してくれました。お待たせしまして済みません(^-^;; って、早々に水かぶってるし……(死)。扱い悪っ。
今回が一応メイン、だったのです。あとはオチ、みたいな。
なんかこの描写だけ読むと普賢と望ちゃんデキてそうですが、デキてません(苦笑)。
あくまでも「おともだち」なんですよぅ(笑)。
どーゆーことなのかは、次回にて。……と宣伝(苦笑)。
これからも、よろしくお願いします……。